[第60回]「栄養補給菓子」販売金額ランキング!『カロリーメイト』を追い詰めるか?新商品続々、『一本満足バー』『フルグラビッツ』『インバー プロティン』。

 ちょっと小腹が空いたとき、食事を摂る時間がないとき、仕事で手が離せないとき等々、カバンの中に1つ、「バランス栄養食品」を入れておくと便利である。いつでもどこでもパッと口に放り込んで、簡単に栄養とエネルギーを補給できるからだ。今回のテーマは、この「バランス栄養食品」。『日経POS情報POS EYES』の商品分類では、「栄養補給菓子」という言葉を使用しているので、本稿でも「栄養補給菓子」で統一しようと思う。

 「栄養補給菓子」とは言っても、その草分け的存在である大塚製薬株式会社(東京・千代田区、以下大塚製薬)『カロリーメイト』が初めて登場した昭和の末期には、まだ“食事を栄養素に分けて、自分の足りないものを摂る”などという発想は消費者には浸透していなかった。『カロリーメイト』も、何か特定の栄養素を補給するというよりは、手軽に“バランス良く”すべての栄養を摂るのがコンセプトだった。要するに「手軽に空いた小腹を満たし、同時に身体にいいもの」、そういう存在だったような印象がある。
 その頃と比べると、現代は世の中全体が健康志向へと向かい、「プロティンだ」、「塩分控えめだ」、「食物繊維だ」、「摂取カロリーだ」と、誰もが各栄養素のことを日常的に語るようになっている。と同時に、それに比例するかのように、そうした個別の栄養素を意識したドリンク剤サプリメントなども数多く登場している。こうした状況を長年観察してくると、結局今の時代になって、「栄養補給菓子」を食べる目的は、足りない栄養素を補給するよりも、多くの人にとっては、やはり「簡単に小腹を満たす」ことにあるのではないかと思えるのである。つまり『カロリーメイト』が登場したときと同じではないかということ。というのも、真剣に自分に足りない栄養素とか、必要な栄養素を考える人は、今では「栄養補給菓子」ではなく、各種サプリを利用しているからである。

「栄養補給菓子」の草分け、大塚製薬の『カロリーメイト』。この黄色は売り場でも非常に目立つ。他のメーカーの商品を探すにしても、まずこの黄色を目印に売り場を探す人は多いのではないだろうか。

 今回、「栄養補給菓子」を求めて売り場巡りをしてみると、確かに今の「栄養補給菓子」のパッケージには、いろいろ栄養素のことが書いてあるが、結局、消費者はそんなことより、「どれが今、食べたい気分かな・・・?」という視点で買う商品を決めているように思える。そんなことを考えつつ、今回もまた『日経POS情報POS EYES』を使って、「栄養補給菓子」の販売ランキングを作成し、商品を買い集めてみた。

(表1)で、上位をほぼ独占する『カロリーメイト』シリーズ。1本100kcalというわかりやすさが、記者には好感が持てる。このラインナップは長年変化なし。飽きが来ないシンプルな菓子である。昨今では災害備蓄用としても売れている。

ロングセラー『カロリーメイト』が上位ほぼ独占!

 データの期間は2020年8月から2021年7月の1年間。日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したPOSデータを、商品分類「栄養補給菓子」で検索し、商品別に販売金額でランキング。そのTOP20を表にまとめたのが下の(表1)である。

 この表を見て、まず気が付くことは、黄色と青が多いこと。特に第11位までには、黄色と青しかない。黄色はすでに『カロリーメイト』の話で紹介した大塚製薬、青はアサヒグループ食品株式会社(東京・渋谷区、以下アサヒG食品)で、コンシューマ向け食品や食品原料等を扱う、アサヒグループ傘下の会社である。

大塚製薬の『ソイジョイ』シリーズ。左から、第11位、第15位、第19位の商品である。小麦粉を使用せず、「まるごと大豆」がコンセプトで、低GI食品のため、糖分の吸収がおだやかで、食べても太りにくいお菓子である。

 先に紹介したように、この分野の草分け的存在は、大塚製薬が1983年に発売した『カロリーメイト』で、それに次いで同社では2006年に『ソイジョイ』(上写真)を発売した。『ソイジョイ』は小麦粉を使用しない新しいタイプの商品で大ヒット。今の栄養補給菓子の基礎を築いたと言えるだろう。そして、その『ソイジョイ』に半年遅れて2006年10月に発売されたのが、(表1)の青色の欄にあるアサヒG食品の『1本満足バー』シリーズ(下写真)である。表でもわかるとおり、『一本満足バー』の売れ行きは『ソイジョイ』をすでに凌駕しているが、大塚製薬の『カロリーメイト』には及ばない。

アサヒG食品のランクイン商品。同社の「栄養補給菓子」はアイテム数が非常に多いのが魅力。売り場でも、棚の多くの面積を占有していることが多かった。

 とはいえ、『カロリーメイト』は発売開始から38年のロングセラー商品で、このランキング表に見る『カロリーメイト』の各商品も、どれも昔からあるものだ。となると、「大塚製薬は何かもっと強力な新商品は出していないのか」が気になり、今回は、さらに同データで絞り検索をかけてみた。

新商品が元気なカルビー、森永!

 『日経POS情報POS EYES』には、「新商品に限定」という絞り検索の機能があり、このスイッチをONにすると、POS情報からの検索対象をさらに「新商品のみ」に絞ってくれる。ここで言う新商品とは、「検索対象期間のうち最も古い日付を含む週から 13 週さかのぼり、それ以降に登場した商品」というもの。つまり、(表1)では2020年8月から1年間のデータを使用しているので、2020年8月の第1週から13週さかのぼって、2020年5月以降に登場した商品だけに(表1)のランキングを絞って検索するのである。
 その結果を商品名だけでランキングしたのが、下の(表2)である。

表中、第6位の『カルビー カルビッツ』というシリーズは、現在ではリニューアルされて第5位や第7位の商品名のように『カルビー フルグラビッツ』という商品名に変わっている。

 この(表2)を先ほどの(表1)と比べてわかることは、黄色=大塚製薬が『ソイジョイ』の2商品しかないこと。青のアサヒG食品は相変わらず多くの商品がランクインしていること。さらに赤や緑の欄が(表1)よりも増えていることである。赤は森永製菓株式会社(東京・港区、以下森永)で、緑はカルビー株式会社(東京・千代田区、以下カルビー)。要するに、大塚製薬は元気な新商品が少ないのに対し、アサヒG食品はどんどん新商品を投入し、やる気満々で、カルビーも新商品がしっかり上位にランクイン。森永も新商品の数こそ少ないが、アサヒと上位争いを演じている、そんな新商品の状況なのである。

森永の『インバー プロティン』シリーズのランクイン3商品。低脂質で高タンパクがセールスポイント。この写真の商品のほかに、現在5商品が投入されている。

(表1)のデータで、メーカー別シェアを見ると、シェアトップが大塚製薬だが、第2位のアサヒG食品との差は大きくない。またそれ以下は、この2社からは少し差を付けられているが、そこにあって、カルビーは今、急激にシェアを伸ばし上位を伺う体勢が見える。もちろんこれだけのデータで全てを語ることはできないものの、この新商品の状況を見ると、もはやトップの『カロリーメイト』の地位は危ういのではないかと思えてくる。

カルビーの「栄養補給菓子」は、参入からまだ日が浅いが、シリアルの強みを多重活用して、年々、大幅に売上げを拡大している。シリアルを丸めたような形も可愛らしく、食べやすい。

 冒頭で書いたように、今や健康サプリ全盛の時代であるために、「栄養補給菓子」の存在意義は、「栄養補給」というより、むしろ手軽に「空いた小腹を満たす」ことにあるように思える。となれば、消費者は、細かな栄養にこだわるよりも「魅力的なお菓子」の方に向くだろう。そういう視点で見れば、本来、製薬会社である大塚製薬より、お菓子メーカーの森永やカルビーの方が一枚上手だと考えるのは自然なこと。1年後、(表1)のランキングが果たしてどう変化しているのか。ぜひ継続的に見て、またの機会にご報告したいものである。(写真・文/渡辺 穣)

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記者

渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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