[第45回]「練り歯磨き」販売ランキング。金額ベースで1位,2位の商品を、個数ベースで逆転した1970年生まれのあの商品!高くても売れる“最強”ブランドは?

 「歯磨き粉」と呼ぶ人もいれば、「練り歯磨き」と言う人もいる。最近では「歯磨きペースト」などと半分横文字を使う人もいる。商品の表記をチェックすると、「ハミガキ」が多数派のようで、マウスウォッシュタイプなら「液体ハミガキ」だし、薬効成分の入ったものは「薬用ハミガキ」である。というわけで、今回のテーマは、その「ハミガキ」である。

 今回も『日経POS情報POS EYES』のデータをフル活用。せっかく「ハミガキ」という言葉で決着したところに申し訳ないが、日経POS情報の商品分類では、この「ハミガキ」は「練り歯磨き」と分類される。商品分類の大分類「歯磨き類」の中には、この「練り歯磨き」のほか、「デンタルリンス」「子供用歯磨き」「その他歯磨き類」と合計4つの小分類があり、この1年間(2020年7月~2021年6月)に日本経済新聞社が独自に全国のスーパーから収集したデータによると、「歯磨き類」全体の販売金額の約80%を「練り歯磨き」が、約16%を「デンタルリンス」が占めている。

多種多様、数の力で圧倒するライオン

 そこで、まず同じ前述した、この1年間(2020年7月~2021年6月)に日本経済新聞社が独自に全国のスーパーから収集したデータで、商品分類「練り歯磨き」で検索し、いつものように販売金額のランキング表を作成すると、下の(表1)のような結果になった。ちなみに同じデータで、メーカー別のシェアを見ると、ライオン株式会社(東京・墨田区、以下ライオン)が頭ひとつ抜けてトップ、以下、アース製薬株式会社(東京・千代田区、以下アース)花王株式会社(東京・中央区、以下花王)サンスター株式会社(大阪府高槻市、以下サンスター)の3社が僅差で続いている。そこで(表1)では、この上位4社を色分けしてみた。最上位の方にアースの赤が固まっており、全体的にはライオンの青が多く、そこに、花王の緑と、サンスターの黄色がパラパラと散在している状況が見て取れるだろう。

 次に各メーカーの「ブランド」に注目してみよう。第1位、第4位、第5位、第6位と、アースは『シュミテクト』ブランドの上位独占ぶりがとても目立つ。ここで1つ間違いなきように確認しておくが、アースはあくまでも『シュミテクト』の発売元で、製造元はグラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン株式会社(東京・港区)である。アメリカに本社がある世界企業・グラクソ・スミスクライン社の日本法人で、この『シュミテクト』は海外では『センソダイン』というブランド名で販売されているものである。アースは4商品がランクインしているが、ブランド名は『シュミテクト』1つだけ。それに対し、9商品ランクインしているライオン商品は、『システマ』『クリニカ』『デントヘルス』『ホワイト&ホワイト』と4ブランド、2商品がランクインの花王も2商品ながら2ブランド、サンスターもランクイン2商品ながら2ブランドが見て取れる。これらは20位にランクインしているブランドで、実際は、それぞれもっと多数のブランド展開をしている。同様に、発売している商品アイテム数を調べてみると、ライオンは149アイテムと頭抜けて多くサンスターの105アイテム、花王の97アイテムを大きく引き離している。アースは49アイテムと4社でも最も少ない。

販売金額TOP3。中央が第1位、左が第2位、右が第3位の商品。ただし、右の第3位は、(表1)にある「増量タイプ」ではない。「増量タイプ」はすでに売り場にはなく、今回入手できなかった。

 もう1つ、表の右端の「カバー率」を見ると、どの商品もカバー率が高く、つまり、どの商品も店頭に多く陳列されていることがわかる。だからこそ、消費者にしてみれば、一体どれを買えばいいのか悩んでしまうわけである。表中、第3位、第5位、第13位の3商品だけが、カバー率20%台と他よりもガクンと低くなっているが、これはおそらく、この3商品が「増量」タイプの数量限定のお買い得商品だからだと考えられる。数量限定のため、在庫がはけると店頭からなくなってしまう。それで、カバー率が低く出ているのだろう。実際、今回、記者が売り場を見て歩いても、第3位と第13位の商品はすでに見当たらなかった。

最強ブランドは『シュミテクト』と『システマ ハグキプラス』

 さて、いつもは(表1)の販売「金額」ランキングで終わりにするところだが、今回は、これに加えて、販売「個数」ランキング表も作成してみた。「個数シェア」と「千人当り個数」により順位を決め、どちらの数値も全く同一の場合は、同順位として上位の20商品を表にまとめたものが、下の(表2)である。

 価格の高い商品は、販売個数が少なくても販売金額が大きくなり、価格の安い商品は販売個数が多くないと販売金額が稼げないことは考えればすぐにわかること。なので、販売金額のランキングは、販売個数のランキングとは、順位が多少入れ替わることはよくあることだ。それでも、多くの場合、驚くほどの順位変動は起きない。だから、これまではほとんど販売金額のみのランキングで済ませてきたのだ。

 ところが、今回「ハミガキ」の販売個数でランキングを作成してみると、ちょっと驚くほどの順位の変動が見られた。メーカーにとっては、販売金額ランキングは気になることだが、消費者にとっては、販売個数ランキングの方が気になるのではないだろうか。多くの人に支持され、みんなが使っている商品というのは、販売金額よりも、販売個数のデータに表れるものだからである。


  
 この(表2)を見ると、(表1)よりも明らかに赤(アース)が減り、緑(花王)が増えた印象があるだろう。そして青(ライオン)は相変わらず多く、黄色(サンスター)は相変わらず散在している。販売個数で稼ぐ安い方の商品のラインナップも、ライオンや花王は広く販売していることがよくわかる。それに比べ、おそらく、アースは、高価格の『シュミテクト』を中心の販売戦略なのだろう。サンスターは、その中間、つまり平均的な価格と『ガム』という高品質商品で堅実に売っているのではないかということが、パッと見ただけで推測できる。

 販売個数で第1位になったのは『ライオン ホワイト&ホワイト 150G』で、販売金額では第19位だったのが、一気に18ランクも急上昇して逆転である。この商品、何と1970年に発売開始の超ロングセラー商品。容器も、今時、まだ横に寝かせるタイプを貫いている(実際は立たせることはできる)。急上昇という意味では、第4位の『花王 ガードハロー ミント スタンディング 165G』は、販売金額38位から34ランクも順位を上げている。どちらも「まだ売ってたの?」と驚かされるようなロングセラー商品で、データ全体の中で、どちらもほぼトップクラスに安いのである。実際、どのくらい安いか計算してみると、例えば(表1)で第1位、(表2)で第2位の『アース シュミテクト 歯周病ケア 90G』は、10g当たり約52.1円であるが、(表2)で第4位の『花王 ガードハロー ミント スタンディング 165G』は10g当たり約5.5円。つまり9.5倍も価格差があるのだ。もともとそれほど単価の高い商品ではないためにわかりにくいが、これだけ価格の格差がある商品が、同じランキングに入っているのは珍しいことでもあり、まさかそこまで価格差があるとはなかなか気が付かないのではないだろうか。

(表2)の中で、最も価格の安い商品3品。ということは、販売個数ランキングの順位が、販売金額ランキングから急上昇したグループである。今時、横に寝ているチューブタイプもあり驚きだ。

 さて今回、わざわざ(表2)を掲載したのは、「安い商品も結構たくさん売れてるんだ-!スゴい!」と驚くためではない。販売金額と販売個数で大きく順位が入れ替わるのは確かに面白い出来事ではあるが、それよりも注目して欲しいのは、(表1)でも(表2)でも、どちらにも上位に入っている商品。しかも、その中で価格が安くない商品なのである。つまり価格が安くないのに、たくさん売れていて、販売金額も多ければ、それはある意味“最強”の商品であるからだ。
 上の2つの表には掲載していないが、今回のランキングデータ全686商品の全体平均価格は340.3円である。これを1つの目安として見たときに、(表2)でこの340.3円よりも価格が高い商品は、実はわずか3商品しかない。金額を赤文字にしてある3商品である。それ以外は、全体平均価格より、かなり安い商品が多いことがわかるだろう。簡単に言えば、「安いからたくさん売れている」のが(表2)の多くの商品である。ところが、その中で金額が赤文字の3商品だけは、全体平均価格よりもずっと高い値段にもかかわらず、たくさん売れているということである。しかもこれらは、(表1)の順位でもそれぞれ第1位、第3位、第5位である。このように、価格が全体平均より高く、かつ(表1)(表2)ともに上位(30位以内)に入っている商品を、まとめたのが下の(表3)である。

 

 この(表3)の商品は、先に述べた“最強”商品である。特に上の2つの商品、『アース シュミテクト 歯周病ケア 90G』と『ライオン システマ ハグキプラス ハミガキ 増量 99G』は、その中でも“最強”と言っていいだろう。ただし、『ライオン システマ ハグキプラス』の方は、10%増量の数量限定商品であることは考慮しなければならないが、増量してないものも(表1)で第10位に入ってきているので、人気の高い商品には違いないだろう。
 いずれにせよ、「今、ハミガキで売れてる商品は何?」と聞かれれば、『アース シュミテクト』『ライオン システマ ハグキプラス』の2ブランドが2強だと答えれば、間違いないと言えそうである。

何にでも効く!「7つの働きがひとつに」が売りの『アース シュミテクト コンプリートワンEX』。

全ての効果を1本で!このタイプの商品の動向に要注目!

 さて、最後になるが、この(表3)の中で、上から3番目に掲載されている『アース シュミテクト コンプリートワンEX 90G』(上写真)という商品を少しご紹介したい。商品名の「コンプリート」という単語は、「完璧な、全部揃った」という意味なので、これはおそらく、「この1本で、すべてが完璧に揃った商品」という意味だと考えられる。すべてというのは、人がハミガキに求める機能・効果のことで、表現やまとめ方に違いはあるが、おおむね「虫歯予防」「口臭防止」「歯を白くする」「歯肉炎・歯周病予防」「歯茎の病気予防」「汚れ落とし」「知覚過敏予防」「口内爽快感」といったことである。

こちらは「8つの機能を全部ひとつに」した『ライオン システマ ハグキプラス プレミアム』。

 記者は、以前、この連載の第9回記事で、「マウスウォッシュ」を取り上げたことがあるが、そこでも結局、これから売れる商品は、「すべての効果を全部まとめて面倒を見てくれる商品」という方向に向かっている予感があった。同じ事は、今回の「ハミガキ」にも言えていて、今その先頭を走っているのが、この『アース シュミテクト コンプリートワンEX 90G』であるように思えるのだ。この商品は、視覚過敏のケアを中心に、歯周病予防、虫歯予防、歯を白くする、口臭防止、口中クリーン、歯石沈着予防という「7つの働きをひとつに」がキャッチフレーズになっている。

花王の『ピュオーラ グラン マルチケア』も、パッケージの効能・効果のところに、7つの効能・効果がすべてまとめられている。「エイジング」というキーワードで、少し高い年齢層をターゲットに。

 同じように、全ての効果を1本でゲットできる商品は、ライオンでは『ライオン システマ ハグキプラス プレミアム』で、「8つの機能全部をひとつに」を売り文句にして発売しており、売り場でも存在感があった。また花王からは『薬用ピュオーラ グラン マルチケア』、そして最新商品としては小林製薬株式会社(大阪市中央区)の『ゼローラ 殺菌トータルケア』が、どちらも絶賛発売中だった。

「お口の様々な原因菌を一度に殺菌」は、小林製薬の『ゼローラ 殺菌トータルケア』のキャッチフレーズ。新商品で、広告と共に思いっきり売り出し中だった。

 こうした「全部まとめて面倒見る」タイプの商品は、少々割高ではあるが、消費者にしてみれば、選ぶ面倒から解放され、結局は売れていくのかもしれない。そして、それが次の時代の「ハミガキ」のデフォルトになっていくのではないだろうか。このあたりの状況は、この先、半年後、1年後、消費者がどういう判断を下すのか、フォローして報告したいと思う。(写真・文/渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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