[第37回]“しょうゆタイプ”から”クラフトタイプ”へ!「ペットボトルコーヒー」は少しずつ飲めることと格安価格が魅力!?新たな顧客層を開拓している可能性も。

 一昔前は、コーヒー飲料というと「缶コーヒー」というイメージがあったが、今は「ペットボトルコーヒー」と言われるようになっている。ここで言う「ペットボトルコーヒー」とは、単に「ペットボトルに入ったコーヒー」という意味ではない。今回の『日経POSランキング』のテーマは、この「ペットボトルコーヒー」である。

「500ML前後」が市場を引っ張っている!

 まずは、この「ペットボトルコーヒー」の意味合いをはっきりさせるために、いつもの『日経POS情報POS EYES』の商品分類で、まず大分類の「コーヒー飲料」というカテゴリーを見ると、その中には容器の違いにより5つの小分類のカテゴリーが存在することがわかる。その5つの中で、「ペットボトル入りコーヒー飲料」と「缶入りコーヒー飲料」が大きなシェアを占めているのだが、その2つの小分類カテゴリーの販売金額シェアを、「2016年6月」と「2021年5月」の2つの期間で比較してみると、

・2016年6月は、 ペットボトル入り 42.5%  缶入り 42.4%

 と非常に拮抗しているのに対し、

・2021年5月は、 ペットボトル入り 57.4%  缶入り 30.0%

 と大差でペットボトル入りが上回っている。

 2016年6月より前のデータは検索できないが、大きな流れを見れば、それ以前はおそらく「缶入り」が「ペットボトル入り」を上回っていたことは間違いないと思われる。それでは、なぜ「ペットボトル入りコーヒー飲料」がこの5年間で大きくシェアを伸ばしたのか。今度は、小分類カテゴリー「ペットボトル入りコーヒー飲料」の販売ランキングTOP10商品を比較したのが、下の(表1)の2つの表である。

※『日経POS情報POS EYES』で、日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したPOSデータにより、商品分類「ペットボトル入りコーヒー飲料」のランキングTOP10を、2016年6月と2021年5月の2つの期間でそれぞれ作成したものである。

 ここで各商品の「内容量」に注目して欲しい。上の表、つまり2016年6月のTOP10では、内容量「500ML」の商品が2つで、残り8商品は「900~950ML入り」の商品構成だが、下の2021年5月のTOP10では、逆に「900ML入り」が4商品で、残り6商品は「500ML~600ML」と、両者の比率が逆転しているのである。また、表中グレーの欄の商品はTOP10から脱落した商品、逆に黄色の欄の商品は新たにTOP10にランクインした商品、そして赤文字の商品は内容量が「500~600ML」の商品であるが、2021年5月に新たにランクインした商品はすべて「500~600ML」の商品であることがわかるだろう。

オシャレ感のある、こだわりを感じさせる500ML前後の「ペットボトルコーヒー」が、その売り場を拡大している。

 実は、この内容量「500ML前後」のペットボトル入りのコーヒー飲料こそが、本稿で言う「ペットボトルコーヒー」のことで、昨今の「ペットボトル入りコーヒー飲料」市場を牽引する主役である。データ全体を見ると「410~600ML」あたりの商品が、この「ペットボトルコーヒー」に当てはまる商品なのだろうと思われるが、本稿ではキリのいいところで「400~600ML」の「ペットボトル入りコーヒー飲料」として、以下、話を進めていきたい。

「ペットボトルコーヒー」。内容量は左から500ML、600ML、500ML、500ML、480ML。

持ち歩けて、チョビチョビ飲める魅力!

 そこで、今度は、この「ペットボトルコーヒー」に絞って、今、売れている商品TOP10をランキングしたのが、下の(表2)である。これは、(表1)の下の表、2021年5月のランキングから、手作業で「内容量400~600ML」の商品を抜き出して作成したものである。

 TOP10の商品は、コカ・コーラが4商品、サントリーが3商品、キリンビバレッジ(表中表記ではKビバレッジ)が2商品、アサヒ飲料が1商品で占められているが、「ペットボトル入りコーヒー飲料」全体の同データでも、メーカー別では、コカ・コーラとサントリーの2強が頭抜けていた。(表2)の結果と合わせて考えると、昨今人気の「ペットボトルコーヒー」は、『サントリー クラフトボス』と『コカ・コーラ ジョージア ジャパンクラフトマン』が2強ブランドで、そこに追い迫る『キリンビバレッジ ファイア ワンデイ』ブランドという構図になっているようである。

2大ブランドに迫る『キリンビバレッジ ファイア ワンデイ』。遠目にはアルミボトルのように見えて、売り場でも目立ってカッコいい商品である。

 ここで“2強ブランド”に共通するのは、「クラフト」という単語である。英語で「職人技」「技能」といった意味合いのこの単語は、最近では、「こだわりのある、比較的小ロットで、少し割高な商品」のネーミングに使用されるケースが流行っている。例えば、「クラフトビール」だとか、「クラフトジン」といった具合だ。ところが、今回の「ペットボトルコーヒー」の場合、商品自体には「クラフト」的なこだわりや、パッケージの見た目のカッコ良さは感じるものの、価格は非常に安いのが1つの特長である。(表2)でわかるように、「平均価格」はすべて100円を切っている。従来、缶コーヒーを買っていた人から見れば、非常にお得感が強いのである。また、缶コーヒーなら、1回開けると飲み切らないといけなかったが、「ペットボトルコーヒー」なら、フタがあるので、1日中バッグに入れて、飲みたいときに取り出して少しずつ分けて飲むことができるのが魅力だ。従来の900ML「ペットボトル入りコーヒー」を持ち歩く人はいないだろう。

900~950ML入りの「ペットボトル入りコーヒー飲料」(右)は、まるでしょうゆのボトルのように見える色と大きさである。

 こうしたことを考えると、昨今の「ペットボトルコーヒー」人気は、こだわり感やオシャレ感があるのに、お買い得で、飲み方の自由度が高まったことで、より裾野が広がった新しい消費者が支えていると考えることもできそうである。少し砕いて言えば、今までなら、缶コーヒー1本を飲み切る自信がなかった女性でも、1日かけて少しずつ飲むことができ、それでいて値段的にはお得感があり、いつでも持ち歩ける手頃な大きさなので、買ってみようかなと触手を伸ばしている。そういう消費実態があるのかもしれない。

TOP10に4商品がランクインした、『コカ・コーラ ジョージア』ブランドの商品。そのうち、「クラフト」の名が入る商品は3つある。

あくまでコーヒー“風”の飲料としてなら、コレ!

 さて、最後に、少し具体的な商品の話をしたいと思ったが、「コーヒー飲料」という商品の“味”を語ることは、記者には無理だと感じている。何より、缶飲料の時代から、コーヒー飲料はあくまでコーヒー“飲料”であって、コーヒーとは別物だと強く感じているからだ。また、百歩譲って、これがコーヒーだとしても、コーヒーは嗜好品であり、自分の好みで選ぶべきものだからだ。ちなみに記者は少年時代からのコーヒー好きで、サイフォンかドリップ以外でコーヒーを飲んだ経験がほとんどなく、自ずと周囲にはいつもコーヒー好き人間が集まるのだが、コーヒー好きで、コーヒー飲料好きな人はほぼ見たことがない

 また、今回、「ペットボトルコーヒー」を飲んで感じたのは、まず「味が薄い」こと。これは浅煎り豆でドリップした、しっかりした薄さならいいのだが、例えば10Gの豆にお湯を250ccも入れてドリップしたような、つまり水で薄めただけのような味にしか感じられないのだ。非常に辛口な言い方をすれば、「こうして薄めたから、価格を安くできたのでは?」と疑いたくなるほどである。また「無糖」以外の商品は、昔も今も、相変わらず甘すぎる。特に昨今人気の“クラフト”っぽい新しい商品は、味が薄い上に甘いので、今まで以上に中途半端な味に感じられた。

左が第4位、右が第7位。甘くクリーミーな飲み物としてのみ、気分次第では飲みたくなるが・・・。

 そういうわけで、今回のTOP10をすべて「おためし」した記者の、あくまでもコーヒー好きな個人としての感想だが、強いて言えば、比較的“クラフト”っぽくない2つの商品(上写真)、第4位の『サントリー ボス とろけるカフェオレ PET 500ML』と第7位の『コカ・コーラ ジョージア ご褒美カフェオレ PET 500ML』なら、どうしても甘い飲み物が欲しいときには飲めるかもしれない。どちらも砂糖とクリームたっぷりで、コーヒーの味が希薄だからである。

 「缶コーヒー」の時代から「ペットボトルコーヒー」に進化して、味の進化も期待したが、残念ながらその期待は叶わなかった。外で、格安に美味しいコーヒーを飲みたければ、やはりコンビニコーヒーがベストである。(写真・文/渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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