風味を残せる希少な蒸溜機「カフェスチル」を用いて作られた『ニッカ カフェジン』は想像以上のプレミアム酒
たとえその注目の要因が、ウィスキーの人気過熱による供給不足だとしても構わない。ジンというジャンルにこうした素敵なスピリッツが増えていくのなら。『ニッカ カフェジン』は世界的に希少になった伝統的な連続式蒸溜機「カフェスチル」を用いて製造されたプレミアムなジン。贅沢な芳香と甘さを感じるその複雑な味わいに驚いた。
カクテル・ベースにするなんてもったいない。ジンならではのボタニカルな芳香と甘みを存分に味わえるからストレートorロックで楽しむべき
ジンは蒸留酒(スピリッツ)の一種。大麦やライ麦、とうもろこしなどを原料として作られ、主にジュニパーベリー(セイヨウネズ)の香りづけがされたクセのある酒だ。ブランドとしては、「ギルビーズ」「ゴードンズ」「タンカレー」「ビーフィーター」「ボンベイ・サファイア」あたりが有名どころ。
通常はカクテル・ベースとしてハードボイルド業界御用達のマティーニやギムレットに使われ、ジンを主役にするとしてもライムを添えたジン・トニック、ライムジュースを混ぜるジン・ライム、レモンジュースに砂糖まで加えるジン・フィズなど、その貴重な芳香を消す方向で作られるのが、ジン・ファンとしては残念だ。
記者は普段から時たま店でも「ボンベイ・サファイア」をソーダ割りで注文して、レモンやライムを添えずに飲みたくなる時がある。ジンには変えがたいジュニパーベリーを芯にしたアロマと苦味がある。その香りを邪魔する柑橘は必要ないというのが記者の言い分。それだったらより香りのないウオッカを選べばいいと思う。近年缶チューハイなどのベースに採用されることの多いウオッカは、そうした果実の香りを邪魔することなくアルコール添加できるのが最大の特徴だからだ。
そんな中、近年ジンが注目を浴びているのは、世界的にウィスキーがブームを呼んでおり、供給量が不足しているから。不足しているなら増産すればいいと思うかもしれないが、欧州の規定では最低でも3年以上、高価なものでなくとも、少なくとも5年以上かかるのが常識。つまり作ってすぐに出荷できないのがウィスキーなのである。角ハイボールでおなじみの「サントリー角瓶」にしても7年以上の熟成を経て出荷されている。つまり今大量に出荷するためには、7年前の段階で予測していなければ不可能ということになる。
そこでジンだ。原料を蒸留して香りづけをすればすぐに商品として出荷できるジン。ウィスキーと同じように40度以上の高アルコールでありながら、ウィスキーを補うために各メーカーが着目したのだと思う。ウオッカでもいいではないかと思うかもしれないが(同様にカフェスチル蒸溜機を用いた「ニッカ カフェウオッカ」も同時発売されている)、基本的に無味無臭のアルコールという側面の強いものよりも、特徴的な香りのあるジンの方がウィスキー代替として適していると考えたのかもしれない。
そこで特徴的な製法で芳香と味わいを高めたプレミアム・ジン、クラフト・ジンと呼ばれる一つ格上のジンが登場してきた。今回紹介するアサヒビール/ニッカウヰスキーの『ニッカ カフェジン』(700ml・参考小売価格 税抜4,500円・2017年6月27日発売)も、19世紀前半に開発された「カフェスチル(カフェ式連続式蒸溜機)」を使ったプレミアムなジン。名作ウィスキー「竹鶴」にも使われている1963年の導入当時でも旧式と言われていた蒸留機。操作も難しく効率も悪いというのにわざわざ選んだのは、蒸留液に香りや味わいを残すという特徴があったから。
だからか、と飲めば頷く。『ニッカ カフェジン』はキャップをひねると芳醇ともいうべき植物由来の香りが飛び出してくる。大麦麦芽(モルト)やとうもろこしなどの原料を「カフェスチル」で蒸溜したところに、ジンの必要条件であるジュニパーベリーで香りづけする他に、山椒、柚子などの和の柑橘を浸漬したために、そのプロフィールには日本の伝統の芳香まで感じる個性の強さ。ボタニカルと言ってしまうには複雑すぎる香りがたまらなくいい。
常温ストレートで口に含んでも、高アルコール特有のビリビリとした感じは少なく、まろやかな仕上がり。爽やかでスパイシー、かつその口当たりは甘さを感じさせるのが不思議。これは和風ジンという新しい価値観の味わいである。今年の9月からは欧米でも発売予定だそう。日本のウィスキーが世界的に高評価なように、日本のジンもその存在感を高めることは想像できる。
大きめの氷を入れて、引き締めながら飲むと、さらに清涼なアロマが駆け抜ける。人によっては”薬臭い”と言われることも多いジンだが、この香りを嗅いでも、まだそんなことをいうのだろうか。
もちろんトニックウォーターで割れば、より飲みやすくなる。好みによってはレモンなどの柑橘を絞ってもいいかもしれない(もったいない気はするが)。カクテル・ベースにすれば一段格上の味わいに。価格的にはジンとしては高価格だが、ウィスキー基準ならバカ高いわけではない。ジン好きの人なら、必ず嬉しい驚きがあるはずなので、ぜひ試してみてもらいたい。
photo by 尹 哲郎