[第6回]シリアル市場。カルビー・フルグラは、なぜケロッグを抜いたのか?食物繊維ならオートミールや小麦ブランにも注目!

 ちょっと目を離したスキに事態が大きく変わっていると、目を離していた間に一体何が起きたのか知りたくなるのが人情というものである。記者にとっては、スーパーのシリアル売り場が、「ケロッグのコーンフレーク」から、いつの間にか「カルビーのフルグラ」一色に変わってしまったのが、まさにその「目を離したスキ」の出来事だった。というのも、かつては「シリアルといえばケロッグ」というのが記者の既成概念だったからだ。

というわけで、第6回『日経POSランキング』のテーマは「シリアル」である。まずは現状をデータで確認してみよう。

(表1)

 上の表1は、『日経POS EYES』を使い、昨年1年間に日経独自集計の全国約460店舗のスーパーで、「シリアル類」という商品分類で検索した結果を、販売金額でランキングした結果のトップ10である。

 見ての通り、『カルビー フルグラ800G』の圧勝である。しかも2位もカルビー フルグラ、8位もカルビー フルグラである。このカルビー3商品でだけで金額シェアは21.3%にもなる。そして記者の“既成概念”だったケロッグは、3,4,7,10位に食い込む健闘を見せてはいるが、この4つを合わせても、金額シェアは11.8%に過ぎないのである。

 さらに、もう少しこのランキングを詳しく見てみると、トップ10の10品目のうち、なんと7品目が、いわゆるフルグラ(カルビーではフルグラ、ケロッグではフルーツグラノラと呼ぶ)商品。つまりフルーツとグラノーラのミックス商品なのである。

 グラノーラとは、いまさら説明するまでもないが、麦、玄米、とうもろこしなどの穀物加工品と、ココナッツ、ナッツなどを、砂糖、はちみつ、メープルシロップ、植物油と混ぜてオーブンで焼き、それを砕いたもので、豊富な栄養素とザクザクとした歯ごたえが昨今人気のシリアル食品である。業界団体の「日本スナック・シリアルフーズ協会」の出荷実績(下表2)を見ると、いまやシリアル食品の約7割が「グラノーラ」で占められていることがわかる。それはランキング表の10品目のうち7品目がフルグラ商品であることとも一致する。

(表2)

コーンフレークからグラノーラへ。これがトップ逆転の原動力

 それでは、一体いつから、このようにシリアル食品の中でグラノーラがトップになったのだろうか。そこでもう一度、上の表2を見ていただこう。小さくて見にくいが、コーンフレークとグラノーラの金額欄を年代を追って見ていくと、2013年に初めてグラノーラがコーンフレークを逆転したことがわかる。その後はグラノーラがコーンフレークを突き放す一方である。そして時を同じくして、その2013年に、それまでシリアルでトップシェアだったケロッグがカルビーにトップの座を明け渡しているのだ。ケロッグといえば、記者が物心付いた1960年代には既にコーンフレークやコーンフロストをほぼ独占的に売っていた印象がある。ところが、そのコーンフレーク時代が、2013年にがグラノーラ時代へと変わり、それがすなわちケロッグ時代からカルビー時代への転換点になったというわけである。

 それでは、なぜコーンフレークからグラノーラへと、シリアルの主役が変化していったのだろう。その理由の1つは、日本の食文化とシリアルの食文化は、あまりにも時代がかみ合っていなかったということがあるだろう。健康的な朝食習慣として、アメリカからケロッグのコーンフレークが日本に入ってきた頃、日本ではまだまだ「朝食にシリアル」などとは考えられない時代だった。シリアルどころか、「朝食にパン」ですら違和感のあった時代である。その結果、ケロッグのシリアルは、朝食というよりも健康的な「子供のおやつ」として売られていたように思われる。『コーンフロスト(現在のコーンフロスティ)』に、おもちゃが入っていた頃の今でも鮮明に残っている。

「成長期のお子様に」と紹介されている『ケロッグ コーンフロスティ』。日本ケロッグ合同会社(東京千代田区)のHPより。

 しかしそれから50年の時を経て、時代は変わった。海外に多くの日本人が行くようになり、シリアルの朝食にもさほど違和感がなくなってきた。また食の安全性や健康に対する意識が高まり、簡単で栄養価の高い朝食が、特に働く女性を中心に好まれるようになった。美容と健康のために、腸内フローラを整える「腸活」といったブームもあり、食物繊維や乳酸菌入りの朝食が好まれるようにもなった。そこで食物繊維を豊富に摂取できるグラノーラが脚光を浴びることになったのである。「子供のおやつ」ではなく、若い女性を中心にした「健康コンシャス層の朝食」として、グラノーラは注目されたのである。

1988年という比較的早い時期からグラノーラを製造していたカルビーだったが、こうした時代背景の後押しを得て、一気にグラノーラマーケットが開花した。そして先に述べたとおり、2013年、ついにグラノーラがコーンフレークを逆転することになったのである。ちなみにカルビー株式会社(東京・千代田区)は、1991年には現在のフルグラであるフルーツグラノーラを発売し、今年はフルグラ30周年を迎える。

食物繊維分の多いカルビーのフルグラ

 さて、それではここで再度、表1のランキングに話を戻そう。このような時代の変遷を念頭に置いて、今一度ランキング表を見ると、いわゆる“コーンフレーク時代”の商品は、トップ10に唯一、第4位『ケロッグ コーンフロスティ 栄養機能食品』がランクインしているだけで、ケロッグもいまやコーンフレークからグラノーラへと主力商品をシフトしていることがうかがえるのである。ではなぜ、同じフルーツの入ったグラノーラの中で、カルビーが圧勝の1位となったのだろう。

(表3)

※商品のパッケージに記された栄養成分表から、比較のために「50g」当たりに換算して作成したもの。

 そこで第1位の『カルビー フルグラ』第3位の『ケロッグ フルーツグラノラ 朝摘みいちご』の栄養成分を比較したのが上の表3である。これを見ると同じ50g当たりの換算値で、どの栄養成分を見てもおおむねカルビーの方が多く含まれており、鉄分やカリウム、カルシウムなどのミネラル分でのカルビーが多さが目立つ。そして最も大きな違いは食物繊維である。ケロッグの1.9gに対してカルビーは4.5g。約2.4倍も多くの食物繊維をカルビーの方が含んでいるのである。それでいて価格を比較してみると、どちらも100gあたりに換算で、カルビーが75.9円、ケロッグが80.4円と、ケロッグの方がやや割高となっている。

 次に、この両者の中身を写真で比較してみよう。上の写真、左がカルビー、右がケロッグである。一見すると、右のケロッグが華やかに見えるが、これは商品名にもなっている「いちご」が大きめにスライスしてあり、それがふんだんに入っているからである。逆に、この「いちご」を取り除いて見ると、ケロッグの内容物は、麦類、米、コーンなどの穀物が多く、それにレーズンとかぼちゃの種が入っている程度で地味である。それに比べ、カルビーの方は、小さめながらいちごが入っていて、その他にレーズン、かぼちゃの種、さらにりんごやパパイヤの角切りが入っていて賑やかである。

 味については、好みの問題もあるので一概に言うことはできないが、記者が気になったのはケロッグの方が甘いこと。成分で比較しても、ケロッグの糖分の方がカルビーよりもわずかながら多くなっている。もし朝食のメニューの1つとしてシリアルを加えるのなら、記者なら甘くない方を選ぶだろう。

 こうして比較してみると、値段が安く、栄養価が高く、甘くないカルビーの方が売れていることは理解できる。特に、栄養素の中でも、「食物繊維」への意識の高い若い女性のニーズに、食物繊維が2倍以上も多く含まれるカルビーのフルグラはピシャリとはまったのではないだろうか。

食物繊維を摂るなら、オートミール、小麦ブラン!

 再再度、表1のランキングに戻ろう。ここでフォーカスしたいのは、第5位『日本食品 プレミアム ピュアオートミール』第10位『ケロッグ オールブラン フルーツミックス』である。この2商品、価格は高い。第1位の『カルビー フルグラ』に比べると、どちらも6割近くも高いのである。ところがしっかりとランクインしている。しかもどちらもグラノーラ商品ではない。オートミールと小麦ブランである。

ランキング第5位の『日本食品 プレミアム ピュアオートミール』。日本食品製造合資会社(北海道札幌市)のHPより。

オートミールとは、いわゆるオーツ麦のことで全粒穀物であるため、食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富に含まれる。一方の小麦ブランは、小麦の外皮(ブラン)を主原料とするため、食物繊維が非常に多く含まれ、近年、腸内環境の改善にいい食品として注目を集めている。どれくらい食物繊維が多いかというと、第5位の『日本食品 プレミアム ピュアオートミール』は50g当たり5.5g、第10位の『ケロッグ オールブラン フルーツミックス』は50g当たり6.8gで、どちらも第1位の『カルビー フルグラ』の4.5gを上回る。ちなみに『ケロッグ オールブラン ブランリッチ』というシリアルは、記者がよく食べるシリアルだが、これだと50gあたり13.8gもの食物繊維を含んでおり、こちらは第1位の『カルビー フルグラ』の約3倍もの食物繊維を含んでいることになる。

パッケージにも「腸」とか「腸内環境」「食物繊維」という言葉が踊る、ランキング第10位『ケロッグ オールブラン フルーツミックス』。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」によると、日本人の成人男性は1日に20g以上、女性は1日に18g以上の食物繊維の摂取が推奨されているが、この『ケロッグ オールブラン ブランリッチ』を大盛りで食べれば、もうそれだけで日本人1日分の食物繊維が摂取できる計算になるのである。

日本のシリアルマーケットを見ると、ケロッグのコーンフレーク時代が終わり、2013年にカルビーのグラノーラの時代が始まった。しかしその後、カルビー以外のメーカーもグラノーラで追随し、ケロッグ、カルビーの争いは目が離せない。さらに健康志向から食物繊維に関心のある人たちは、グラノーラからオートミールや小麦ブランにも目が向き始めている。メーカーでいえば、カルビー、ケロッグだけでなく、シスコーンで知られる日清シスコ日本食品製造もシリアル製造の歴史は古い。特に日本食品製造は、すでに100年以上も前に日本で最初にシリアルを製造したメーカでもある。

消費者としては、単にイメージやコマーシャルに踊らされることなく、自分に最適なシリアルを探しそれを適切に摂取すれば、日本のシリアル市場に今後また違った光景が見えてくるのかもしれない。

 

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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