[第4回]ボトル売りシャンプーはライオンと花王の超ロングセラー対決! 詰替用商品を含めると・・・?

 日経POSランキング、今回のテーマは「シャンプー」である。昨年1年間で最も売れたシャンプーは何だったのか。それを考えるとき、おそらく男性と女性で思い浮かべる商品は異なるだろう。シャンプーという商品は、男性用と女性用が、比較的はっっきりと分かれてしまうものだからである。しかも、おそらく男性よりも女性の方が、シャンプーの消費量が多いと予想できる。だとすれば女性用のシャンプーがランキング上位に来るのか、それとも男性、女性を問わず“中性的”に使われるユニセックス商品が上位なのだろうか。安い方が売れるのか、高い方が売れるのか。そのようなことをいろいろ考えていると、シャンプーの販売ランキングは興味深く、結果が楽しみである。さっそく今回も『日経POS EYES』からPOSデータを検索してみよう。

求められるのは「汚れを落とす」か「美しい髪」か?

 下の表1は、日経が独自収集した全国約460店のスーパーでの、2020年1月から12月までの12ヶ月間のPOSデータから、「シャンプー」、「リンスインシャンプー」、「シャンプー・リンス・コンデセット」という3つの商品分類でデータを抽出し、その販売金額によりトップ10をランキングしたものである。このデータには、詰替用の商品は含まれておらず、あくまでもボトルに入った形で販売されているシャンプー等の販売ランキングである。

(表1)

※千人当り金額、平均価格の単位は、どちらも(円)。 ※千人当り金額とは、「千人の客が来店したときに、その商品がいくら売れたかを示す数値で、地域・業態の規模、収録店舗数の変動に関係なく、商品の売れ行きを計ることが可能になる。

 堂々の第1位はライオンの『オクト 薬用シャンプー320ML』で、以下、花王の『メリット リンスのいらないシャンプー480ML』資生堂『セラムノワール ノンホワイトヘアマッサージ シャンプー240ML』と続く。トップ3に、いわゆる“美しい長い髪の女性がCMに登場するようなタイプ”のシャンプーは存在しない。1位、2位は、しっかりと洗うタイプのシャンプーであるいる。やはりシャンプーに求められる機能は、まず「汚れを落とす」ことなのだろうか。もう少し詳しく見ていこう。

 このランキングをよく見ると幾つか面白いことがわかる。その1つ目は、トップ10に名を連ねた商品は、大きく2つの商品群に分けられそうだということ。つまり

1位、2位、4位、10位の商品は、「フケやかゆみを抑えすっきりと汚れを落とす」機能を前面に出したシャンプー

であるのに対し、

5位、6位、8位、9位の商品は「髪に栄養を与え傷みをケアし美しい髪を保つ」機能を売りにしたシャンプー

なのである。前者の方がおおむね値段が安く、男女を問わず使用される。なかでも10位の花王『サクセス リンスのいらない薬用シャンプー スムースウォッシュ400ML』は、はっきりと「男性用」をうたっているシャンプーである。それに対し、後者はやや値段が高く、主に女性が使うものだろうと思われる。

 またトップ10の中で、その2つの商品群に含まれないのは、3位の資生堂『セラムノワール ノンホワイトヘアマッサージシャンプー』で、これは女性用の育毛・スカルプケアを意識した商品、7位のピュール『利尻カラーシャンプー ダークブラウン200ML』で、これはカラーリング用のシャンプーである。この2つは特別な目的のタイプで、値段も他よりワンランク高くなっていることがわかる。

花王の『サクセス』は男性用ブランドで、素早い洗浄力を売りにしている。

際立つライオンと花王の違い

 面白いことの2つ目は、ランキングでトップに立つのはライオンの『オクト 薬用シャンプー320ML』だが、次にライオンのシャンプーでランクインしている商品は、驚いたことに386位の『薬用毛髪力シャンプー200ML』まで1つもないということ。しかもライオンのシャンプーは上位1000位まで見ても、わずか6商品しかランクインしていないのである。

 それに対し対照的なのは花王である。トップ10にも3商品がランクイン。上位1000位まで見ると、もはや数え切れないほどの商品がランクインしている。それだけ多種多様なラインナップで展開しているということである。1つのブランドでも、サイズの違いや、容器の違い、リンスインタイプなど、多様なラインナップで展開する花王と、そうした販売展開をしないライオンのコントラストがはっきりと見えるのである。

ドラッグストアの店頭に並ぶ、花王『メリット』の様々なバリエーション。

 さらに、面白いことの3つ目は、いわゆる“リンスのいらない”タイプのシャンプーがトップ10に2商品ランクインしていること。これも実は花王の商品が多く、例えば同じ日経独自収集の昨年のPOSデータから商品分類「リンスインシャンプー」というカテゴリーだけで抽出すると、トップ10のうち6商品が花王、トップ20だと10商品が花王の商品となる。それくらい花王の占める割合が高いのである。

ネット通販の商品レビューなどを読んでみると、この手のいわゆる「リンスインシャンプー」のニーズは意外と女性に高いことがわかる。「時間があるときは髪をいたわるようなシャンプーをゆっくりと使用し、さらにしっかりとリンスやコンディショナーも使いますが、急いでいるときはリンスインタイプで済ませます」といった趣旨の女性のコメントが非常に多いのである。花王は、こうした忙しい女性のニーズをしっかりと捕まえている。非常に戦略的な商品開発・販売手法を採っているように見えるのである。

超ロングセラー商品の1位と2位

 このようなライオンと花王のコントラストをふまえて、もう一度ランキング表に目を戻すと、1位と2位の商品を少し深く調べてみたい衝動にかられる。というのも、この2つのシャンプーのブランド「オクト」と「メリット」は、どちらも超ロングセラー商品なのだ。特に「メリット」は今から50年前、記者が小学生のときに誕生し、テレビでよくCMを目にした記憶が今も鮮明に残っている。あのとき全く意味もわからず「ジンクピリチオン配合」という“フケ・かゆみに効くおまじない”を聞いて、記者も含め多くの人がメリットシャンプーを使ったのだから、50年前からすでに花王という会社は非常に消費者の心をつかむマーケティングに優れていたのだと思う。その「メリット」が令和3年の今、まだ2位に君臨していて、記者が社会人になった頃に売り出された「オクト」もまた、35年経った今、トップの座にいる。この状況にはどうしても興味をそそられるのである。

一徹のオクトと変幻自在のメリット

 さて花王のメリットシャンプーの歴史を少し紐解いてみると、先ほどご紹介したように発売が開始されたのは50年前の1970年。当時はまだ「毎日シャンプー!」という文化は日本にはなかったため、「頭がかゆい」とか「フケが出る」という悩みは深刻だったのだと思われる。そこに「ジンクピリチオン」で「フケ・かゆみを抑える」という売り文句で登場し、あっという間にヒット商品になったのが『メリットシャンプー』だった。ところが、時代は変わり「朝シャンブーム」などというものが流行り出すと、テレビからは「♪リンスのいらないメリット♪」というCMが流れるようになる。「フケ・かゆみ」から、働く女性たちの「お手軽シャンプー」に、さらりとコンセプトを変えているのだ。そしてさらに時は流れ、清潔コンシャス、環境コンシャスの世の中になると、「新・家族シャンプー」というコンセプトを掲げ、一家に1つメリットシャンプーという立ち位置を獲得。時代に合わせ、しなやかにコンセプトを変え、それに合わせ、ボトルのデザインやバリエーションも増やし、いつまで経っても古さを感じさせない商品作りをしている。これが花王のメリットシャンプーの凄さだろう。50年という超ロングセラーにも頷けるのである。

花王のホームページには、メリット50年の想いというコーナーがあり、時代背景と商品コンセプトの変遷が整理されている。

 一方のライオンのオクトだが、こちらも発売開始は1985年というから、すでに35年の超ロングセラー商品である。しかし、こちらは花王とは対照的に、1つの商品コンセプトを貫いている。商品名にもなっている薬用成分「オクトピロックス」によるフケ・かゆみを抑えるシャンプーというコンセプトは不変で、ボトルデザインにもどことなくレトロな雰囲気が漂う。しかも容量によるボトルのサイズのバリエーションもなく320MLのワンサイズだけで、ポンプタイプのボトルもなければ、もちろん詰め替え用も販売していない。使ってみるとわかるが、シャンプーの香りもどこか昭和の懐かしさを感じるもので、ここまで時代に媚びない姿勢は、これはこれで好感が持てるのである。それでなおかつトップにいられるのは、価格的に優位性があることと品質に対する確固たる自信あるからなのだろう。ちなみに表1の平均価格から、それぞれのシャンプーの1ML当たりの価格を計算すると、『メリット リンスのいらないシャンプー480ML』が1.42円であるのに対し、『オクト 薬用シャンプー320ML』は1.27円である。記者は、今回この『オクト 薬用シャンプー』を実際に使用し、洗い上がりの爽快感や、その後のかゆみなどが出ない機能性を非常に気に入っている。こういう商品は、ぜひ今後も残って欲しいものだ。

こちらはライオンの『オクト』のブランドサイトの入り口である。フケ・かゆみについての解説が詳しく書かれている。

詰め替えマーケットとメーカー別は、花王が圧勝!

 さて最後になるが、ここまでの話は、前述したように、あくまでも詰替用のシャンプーは含めないデータを基にしている。しかしご存じのように、シャンプーという商品は、いまや大きなポンプ付きボトルを買って、詰め替えていくのが主流の買い方になっている。このことは、マーケット規模を比べてみても明白で、ボトルで買うシャンプーよりも詰替用シャンプーのマーケットの方が金額にして約1.5倍も大きいのである。となると、シャンプーのランキングに詰替用を含めないのでは “木を見て森を見ず” の感があることは否めない。そこで下の表2は、詰替用も含めた昨年のシャンプーの販売ランキングである。

(表2)

 表1同様に、日経が独自収集した全国約460店のスーパーでの、2020年1月から12月までの12ヶ月間のPOSデータから、今度は「シャンプー」、「リンスインシャンプー」、「シャンプー・リンス・コンデセット」に加え、「シャンプー(詰替)」と「リンスインシャンプー(詰替)」という計5つの商品分類でデータを抽出し、その販売金額によりトップ10をランキングしたものである

 やはり詰替用商品が上位を占め、表1でトップの『ライオン オクト薬用シャンプー』がやっと9位にランクインしている。それほどシャンプーでは詰め替えマーケットが大きいのだ。1,2位は花王の『メリット』ブランドとなり、表1の千人当り金額と見比べて見ても、詰め替えマーケットでしっかりと売り上げを拡大していることがわかるだろう。

シャンプー・リンス売り場には、詰替用の商品が棚に溢れるばかりにズラリと並ぶ。

ちなみにシャンプーのメーカー別売り上げは、トップが花王でシェア25.8%の断トツ。2位はP&Gジャパン、3位はユニリーバ・ジャパンと続いている。シャンプーマーケット全体での花王の圧倒的な強さがよくわかる結果となった。(写真・文 渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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