[第3回]“横綱”『サトウの切り餅』と 真っ向勝負!? 独自の販路で売るアイリスフーズの2つの『生きりもち』

12月、1月は、1年で最も「切り餅」の消費が多い時である。このことは、おそらく誰にでも容易に想像できるだろうが、これを実際のデータで見てみると、例えば昨年の場合、12月、1月の2ヶ月で、なんと「切り餅」の年間売上の約半分を売り上げている。しかも12月と1月では、12月の方が明らかに消費が多いことがわかる。

さて『日経POSランキング』の第3回は、この季節商品「切り餅」を取り上げる。さっそく『日経POS EYES』でデータ検索の開始だ。

スーパーでは『サトウの切り餅』が断トツに売れる!

(表1)

※日経が独自収集した全国約460店舗のスーパーのPOSデータから、商品分類「切りもちカテゴリ」で、期間は2020年12月の1ヶ月間でソートをかけ販売金額によりランキングを作成。表中シェアの単位は(%)、平均価格の単位は(円)である。

お正月に餅を食べるといっても、今の時代、自分で餅をつく人は少ない。多くの人はスーパーで「切り餅」を買ってくるのである。そこでまず、日経が独自収集した全国約460店舗のスーパーの昨年12月のPOS情報から、商品分類「切りもちカテゴリ」の販売金額をランキングした結果が上の表1である。

これを見ると、トップテンのうち8つの商品が新潟のメーカーによって占められている。サトウ食品、たいまつ食品、越後製菓、うさぎもちは、いずれも新潟県に本社がある会社なのだ。餅となると、さすがに“米どころ新潟”の面目躍如といったところである。

特に第1位の『サトウの切り餅 パリッとスリット 1KG』は、販売金額シェアが14%と、2位以下を大きく引き離し“断トツ”だ。

おなじみ、赤と白の『サトウの切り餅』。酸素を吸収する「ながモチフィルム」により賞味期限が24ヶ月と長い。

ここまで読んで、「なーんだ、予想通りだ」という読者の声が聞こえそうであるが、事はそう単純ではない。というのは、上記表1のランキングの中で、スーパーをメインの販路にしていない商品が1つだけ混在しているからなのである。それが、第6位の『アイリスフーズ 低温製法米の生きりもち 個包装800G』だ。

「あの家電メーカーって、餅も作ってるの?」

このアイリスフーズというメーカーは、ホームセンターで売られる家電商品などで知られるアイリスオーヤマ株式会社(宮城県仙台市)のグループ会社で、2013年に設立され、アイリスグループの食品部門を扱っている会社である。このアイリスグループの最大の強みは、従来のスーパー等の問屋(バイヤー)に頼らず、ホームセンターを中心に独自の販路を形成している点なのである。

さっそく記者も、自分の住むエリアで、スーパーやコンビニ、ドラッグストア、ホームセンターなどの売り場をチェックしてみると、表1のランキング上位商品はどれも、程度の差こそあれ確かに各スーパーで販売されていたが、『アイリスフーズ 低温製法米の生きりもち 個包装800G』だけは、どこのスーパーにも置いておらず、ドラッグストアでのみ大量に売られているのを確認できたのである。

つまり、スーパーであまり売られていないにもかかわらず、そのスーパーの販売データで6位にランキングしている『アイリスフーズ 低温製法米の生きりもち 個包装800G』は、すべての業態を含めた販売データをとれば、おそらくもっとずっと上位に入ってくる可能性を秘めているのである。

アイリスグループのサイトには、同グループの強みである「メーカーベンダーシステム」の説明が詳しい。

上の図は、先に紹介したアイリスオーヤマという会社の最大の強みである「独自の販路」について、同社のホームページから拝借したものである。これをみると、同社はメーカーでもあり、問屋でもある「メーカーベンダーシステム」というやり方で全国のホームセンターを中心に、独自の流通網を確立している。つまり、卸を通さずに、独自に小売りとのコミュニケーションを確立することで、中間コストを削減し、素早い消費者サービスや低価格化を実現しており、これがアイリスグループの最大の強みになっているということなのだ。

話を「切り餅」に戻そう。前述したように、記者が「アイリスフーズの切り餅をスーパーで見かけなかった」理由は、このアイリスグループの強みである、独自の流通網を活かして販売している所以なのである。

ドラッグストア等の販路でよく売れているアイリスフードの切り餅。マツモトキヨシにはオリジナル商品も並ぶ。

アイリスの「低温製法」は結構イケてる?!

 そこで「おためし新商品ナビ」らしく、さっそく、アイリスフーズの「切り餅」を実際に購入して調べてみると、同社の「切り餅」には大きく分けて2種類の商品、すなわち前述した『低温製法米の生きりもち 個包装』のほかに、『もっちり生きりもち』という商品があって、面白いことに、この2つの商品、同じアイリスフーズの商品であるのに、その商品性がまるで異なるのである。

 

 何はともあれ、実際に食べ比べをしてみよう。どれを比べるかというと、

●サトウA.『サトウの切り餅 パリッとスリット』

●アイリスB.『アイリスフーズ 低温製法米の生きりもち』

●アイリスC.『アイリスフーズ もっちり生きりもち』の3種類の切り餅である。

 比べる前に1つだけはっきりさせておきたいことがある。それは、この3つの商品、値段がかなり違うのである。サトウAを基準にすると、アイリスBの平均販売価格は約22%安く、さらにアイリスCに至っては55%も安いのだ。

 この原因は、アイリスCだけは原料が違うことにある。AとBは「国内産100%の水稲もち米」を使用しているのに対し、Cの商品だけは「タイ産水稲もち米粉」「加工でん粉」「ph調整剤」が原料として記載されている。

さて、そうした違いを意識しつつ、味がよくわかるように、それぞれを網で焼いただけで食べ比べをした結果が下の表である。

 何より、網焼きする前に、袋から出して匂いを嗅いでみると、原料が異なるCだけが、どことなく酸っぱい匂いがして(これはph調整剤の影響か?)、見た目にも明らかに他よりも黒っぽい色をしていることがわかる。

次に焼いてみると、Aの商品は非常に香ばしいお焦げの香りがする。Bも同様に香ばしい香りがするが、Cはあまり匂いがしない。

引っ張って伸ばしてみると、Aの商品は、日本人なら“DNAでわかる”ような餅らしい伸びを見せる。Bは、Aよりもさらに柔らかく伸びる印象があるが、Cは、少しだけ伸びるとブチッと切れてしまう。これが米粉の限界なのだろうか。

『サトウの切り餅』には、十字型の「パリッとスリット」加工が施されており、ふっくらと焼き上がり、手でもきれいに割れる

 さて問題は味である。Aはしっかりと“餅らしい”美味しい味がする。Bも十分に美味しい餅であるが、Cは、口に含んで噛むと、何か薬品のような石油のような嫌な匂いがする。これは記者だけでなく、複数人で一緒に食べた感想なので、あながち外れてはいないと思う。とはいえ、これを例えば濃い味付けにしたり、雑煮に入れて食べれば気にならないレベルでもある。

 まとめると、アイリスBの商品は、Aよりも2割以上価格が安いにもかかわらず、味も香りもそれほど見劣りがしない。これは販路は違えど売れて不思議はないと思われる。他方、アイリスCの切り餅は、味は明らかに見劣りするが、サトウAの半額以下の価格には抗えない魅力もあるだろう。もう20年以上も経済成長を忘れた今の日本では、こうした安いモノだけを狙って購入する層も確実に存在するのである。表1のランキングの裏には、こうした状況も隠されているのである。

 ちなみに昨年、日経MJ(11月23日号)には、餅のバイヤーによる切り餅の食べ比べ結果が紙上に紹介されているが、そこでも『サトウの切り餅 パリッとスリット』は大差で1位に選ばれている。やはりこれは“切り餅界の横綱”と呼ぶに相応しい商品で間違いなさそうだ。さて、このランキング、来年はどうなっているのか。また1年後にデータを取ってみるのが楽しみである。(写真・文 渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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