[第63回]「手指消毒剤」販売金額ランキングTOP20。アルコールで消毒するか、界面活性剤で消毒するか?「指定医薬部外品」で情報開示が明快な商品を選ぼう!

 昨年初頭から、生活のあらゆるシーンで、人々の生活習慣が変化している。その原因が“COVI-19”であることは言うまでもないが、外出時には、あらゆる施設、あらゆる店舗等の入り口で、手にアルコールをふりかけて消毒をする現象もその典型だろう。今回のテーマは、今、そうしてあちこちで使用されている「手指消毒剤」である。

 ドラッグストアやスーパーに行くと、非常に多く種類の「手指消毒剤」が棚に並んでいる。今回記者も8軒のスーパーの売り場巡りをしたが、「手指消毒剤」はいろいろなメーカーから、多くのアイテムが販売されており、選ぶのが難しいことがよくわかった。『2001年宇宙の旅』などの著作で知られる英国のSF作家、アーサー.C.クラークは、「Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic. (十分に発達したテクノロジーはどれも、魔法と見分けが付かない)」という言葉を残したが、それはまさに的を射ており、今の時代、消費者がすべての化学製品の成分物質など知る由もなく、店頭で商品を選ぶにはメーカーが言い放つ“魔法”を信じるほかはないのである。とはいえ、それでも最低限の知識(リテラシー)を持たないと、粗悪品を掴まされないとも限らない。そこで今回は、「手指消毒剤」の販売金額ランキングを見ながら、この“リテラシー”について話をしたい。

売り場には、花王商品が一番多く並んでいたが、圧倒的という感じではなく、幾多の知らないメーカーの商品も多く販売されているのが印象的だった。

 いつものように『日経POS情報POS EYES』で、日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集した、2020年9月から2021年8月までの1年間のPOSデータを、商品分類を「手指消毒剤」カテゴリーで検索をかけ、その商品別の販売金額ランキングTOP20を表にまとめたものが、下の(表1)である

市販の「手指消毒剤」は大きく2種類に分けられる!

 表は、黄色、青、赤の3色に色分けされているが、この色分けの意味が何であるのかわかるだろうか。特に黄色と青の色分けの意味が重要である。メーカーで見ると、黄色の商品のメーカーは、花王株式会社(東京・中央区、以下花王)ライオン株式会社(東京・墨田区、以下ライオン)だけしかない。それに対し、青の商品のメーカーには、花王に加え、株式会社資生堂(東京・中央区、以下資生堂)健栄製薬株式会社(大阪市中央区、以下健栄)株式会社医食同源ドットコム(さいたま市南区、以下医食同源)サラヤ株式会社(大阪市東住吉区、以下サラヤ)と5社が連なる。赤の商品については、後述する。
 色分けの意味の正解は、黄色の商品は、消毒剤の有効成分に「界面活性剤」を使用している商品、青の商品は、消毒剤の有効成分として「アルコール類(エタノール)」を使用している商品を意味する。そうして見ると、黄色の商品は洗剤メーカーが中心で、青色の商品は製薬メーカーが中心であるように見える。消毒効果のある成分としては、他にも次亜塩素酸ナトリウムなど、いくつかの物質があるが、「手指の消毒」に適した有効な成分となると、アルコール類の中でもエタノール、界面活性剤の中ではベンザルコニウム塩化物が使用されることが多いのだ。

「消毒」という文言は、医薬品か医薬部外品にのみ使われる。市販の「手指消毒剤」は、「指定医薬部外品」と表示された商品がほとんどである。

 また、「消毒」という言葉は、医薬品か医薬部外品の効能効果を表すもので、それ以外の商品に「消毒」という文言は使用できない。さらに医薬品は、その製造・取り扱いに専門性を必要とするなど制約も多いため、今日のテーマである市販品での「手指消毒剤」は、基本的に「医薬部外品」がほとんどである。しかも消毒剤はかつて「医薬品」扱いだったが、規制緩和により「医薬部外品」に移行したため、大半の「手指消毒剤」には「指定医薬部外品」という表示がなされている

 まず、ここまでを簡単にまとめると、
1,「手指消毒剤」は、アルコール系(エタノール)と界面活性剤系(多くはベンザルコニウム塩化物)の2種類に分かれる
2,「手指消毒剤」を選ぶときは、「指定医薬部外品」という表示があることを確認する

ということになる。

中央が第1位の花王、左が第3位の資生堂、右が第5位の健栄の「手指消毒剤」。第2位、第4位の商品が、第1位の商品の詰替・付替商品なので、写真の3商品は実質的にランキングトップ3の商品である。

アルコール系には、危険物表示が義務付けられている!

 さて(表1)に戻ろう。第1位から2位、4位、7位、9位と、上位に花王の黄色の商品が目立つ。黄色なので、どれも消毒剤の有効成分が「ベンザルコニウム塩化物」の「手指消毒剤」である。花王の商品が多いと言っても、実はこれらは同じ商品の詰替用や携帯用、形状(スプレータイプ)などバリエーションである。資源を多重活用し、このバリエーション5商品だけでシェア32%も占めるところが花王の強さである。花王以外では、この黄色の商品は、第17位、第20位にランクインしているライオンの商品だけ。花王、ライオンの2社は基本的に各種洗剤や消臭剤といった界面活性剤を主成分とする製品を得意とするメーカーであるので、「ベンザルコニウム塩化物」を有効成分に使用したこれらの商品を、この2社が多く販売することには全く違和感がない。

花王の『ビオレu』もライオンの『キレイキレイ』も、どちらのブランドもハンドソープのもの。両社のこれらの商品は、消毒剤というより、消毒機能が強化されたハンドソープのように感じられる。

 これらの商品には、有効成分としてのベンザルコニウム塩化物の他に、ヒアルロン酸などの保湿剤などが入っているものも少なくなく、ベースの溶剤としてのエタノールが含まれいてることが多い。例えば、第17位の『ライオン キレイキレイ 薬用ハンドジェル 230ML』には、ヒアルロン酸Naが含まれており、溶剤にエタノールが使用されているが、手肌にやさしい「低アルコールタイプ」が売りになっている。勘違いしないで欲しいのは、この溶剤としてのエタノールは、あくまでも他の成分を溶かし込むベースであり、「消毒」効果を期待するアルコールではないということだ。
 有効成分の「ベンザルコニウム塩化物」は、界面活性剤の中でも、石けんなどの陰イオン界面活性剤とイオン極性が反対の陽イオン界面活性剤であるため、「逆性石けん」と呼ばれることもある。難しい理屈はともかく、この性質の違いのため、もし「ベンザルコニウム塩化物」の消毒剤と通常の石けんを一緒に使用すると、中和し合って、効果が薄れてしまうので、石けんとは一緒に使わないようにした方が良い。

左の3商品が「界面活性剤系」、右の3商品は「アルコール系」の「手指消毒剤」。アルコール系の方が、ウイルス対策として、より効果的と言われるが、価格的にも高い設定になっている。

 次に、表の青色の商品、すなわち「アルコール系」の「手指消毒薬」であるが、メーカーの資生堂(第3位、第13位)と花王(第14位)を知らない人はいないだろうが、健栄やサラヤ、医食同源は多くの人にはあまり馴染みがない会社だろう。とはいえ、健栄やサラヤは、医療関係のプロも使用する消毒・殺菌の専門メーカーなので、実は知る人ぞ知るメーカーでもある。花王やライオンが、界面活性剤の手指消毒薬を出すように、健栄やサラヤがアルコールを使用した「手指消毒剤」を出していることも、やはり違和感がない。ちょっと「へえー」と思うのは、資生堂と花王が、アルコール系の「手指消毒剤」を出していること。特に花王は、豊富なラインナップの中で、第14位の『花王 ビオレガード 薬用消毒スプレーアルファ 手指用 350ML』だけが唯一、有効成分にエタノールを使用した「アルコール系」の「手指消毒剤」になっている。商品名に「アルファ」と付いていることが、おそらく「アルコール系」の目印なのだと思われる。

花王のアルコール系の手指消毒剤。商品名の「α(アルファ)」の文字と、「エタノール79.7vol%配合」の表記がアルコール系の証し。

 ところで、アルコール濃度が、重量(w/w)%で60%以上のものは、消防法で規定される「危険物」に該当し、容器表面に「危険物」に該当する旨の表示が義務付けられている(下写真)。そうなると、一定量以上を取り扱う店舗や会社などは、消防署への届け出と、定められた貯蔵・取り扱いの基準を満たさなければいけない。通常、「手指消毒剤」の濃度表示には体積(vol)%が用いられているため、重量%を体積%に換算すると、約67.7vol%以上の場合は「危険物」となるわけだが、消毒用としてアルコールを使用する場合、通常はこの濃度よりも高濃度になる。つまり「アルコール系」の「手指消毒剤」はほぼ「危険物」で、消防法によりその表示が義務付けられるわけだ。その表示項目は、下の写真の例がわかりやすい。

東京消防庁が報道発表資料として昨年4月に出している「消毒用アルコールの取り扱いについて」の文書より。高濃度のアルコールは、気軽に手に入るが「危険物」なのである。

 例えば、第3位の『資生堂 手指消毒用エタノール液 500ML』の容器を見ると、しっかり大きく「火気厳禁」の文字の他に、化学名、危険等級、水溶性などが明記されているのがわかる(下写真)。またラベルには、さらに「してはいけないこ」とか「相談すること」など、消費者目線で、多くの情報が書かれている。

第3位の『資生堂 手指消毒用エタノール液 500ML』のラベルには、危険物の表記だけでなく、様々な情報が、きっちりとわかりやすく開示されており、とても信頼感のある商品作りになっている。

 また、「アルコール系」の消毒剤ではないが、第1位の『花王 ビオレU 薬用手指の消毒液 400ML』には、溶剤として「65vol%」のエタノールが使用されている。危険物かどうかが際どい濃度であるためか、容器には、わざわざ「重量%では57w/w% 消防法における危険物規制適用外」と表示してある(下写真)。こういう表示は、消費者にとっては安心感があり、メーカーの姿勢も伺い知ることができる。

第1位の『花王 ビオレU 薬用手指の消毒液 400ML』のラベル。中央やや上に、「危険物規制適用外」とわざわざ表記している。

 一方、それと裏腹なのが、第5位、第6位にランクインしている健栄の『手ピカジェル』ブランドの2商品。こちらは「アルコール系」消毒剤であるのに、容器表面をいくら注意して見ても、危険物の表示が見当たらない。よくよく見ると、ラベルの一番下に赤文字で「右下部からはがして、説明書をよく読んでください。」と書いてあるのを発見。それでラベルをはがして裏を見ると、そこにやっと危険物の表示があった(下写真)が、これは本来、ラベルの表側にあるべきものではないのだろうか。ラベルの裏は、商品を購入してからでなければ消費者には見ることができないからだ。こうした情報のディスクローズは、より明快な方が、商品やメーカーに対する印象が良くなるのは言うまでもないだろう。

第5位の『健栄 手ピカジェル 消毒用アルコールジェル 300ML』。容器裏のラベルをめくって、そのまた裏に危険物である旨の表記(赤線部)があった。これは容器表面と言えるのか?

第15位の“赤の商品”は「手指消毒剤」ではない!?

 さて最後に、(表1)でただ1つ赤い色に色分けされた商品、ランキング第15位の『洋光 プレミアムハンドジェル 500ML』について書いておかなければならないだろう。こちらの商品のメーカーは、株式会社洋光(東京・渋谷区、以下洋光)で、化粧品や雑貨、日用品などの輸出入販売を事業内容としている。販路は主にテレビ通販やネット通販のようである。
 同社のサイトは、非常に情報量が乏しく、商品に関する情報はほぼ皆無である。案の定、商品名でググってみても、出てくるのは通販サイトばかり。やむなく、アマゾンや楽天など複数の通販サイトを見て、この商品についてわかったのは、
1,指定医薬部外品の表示がない。
2,アルコール濃度が体積%なのか、重量%なのかわからない。
3,その濃度も、通販サイトには70%と書かれていたり、商品には50%と書かれていたり、まちまちである。
4,危険物の表示も、ネットの写真を見る限りなさそうである。
5,アルコールはあくまでも「溶剤」で、消毒剤の有効成分ではない。
6,溶剤であるアルコール以外には、ヒアルロン酸Naやアロエベラ葉エキス、香料などが添加されている。

 これらのことをすべて考慮すると、まずこの商品は「手指消毒剤」ではなく、単なる化粧水の一種なのではないかと考えられる。しかも通販サイトには多くのカスタマーレビューがあるが、一様に評価が低く、とくに「香料の匂いがキツい」というクレームが多い。「そもそも消毒剤に香料は不要」といった記述もあった。ちなみにこの商品は韓国製で、輸出入販売を業とする洋光が輸入販売しているのだろう。

 本稿は、こうした“よくわからない商品”を店頭で見かけたときに、どう判断すればいいのかが自分で考えることができるように、単なる商品紹介ではなく、主に「手指消毒剤」の分類や法的な規制などについて書いたのである。
 繰り返しになるが、大事なことは、「指定医薬部外品」、「アルコール系か、界面活性剤系か」、「濃度表示(体積%)や危険物の表示はあるか」、「アルコールは有効成分か溶剤か」といったことである。このほかにも、アルコール濃度と酒税法と価格の問題なども、実は興味深いのであるが、これもまた複雑な話なので、今回はここまで。おそらくは今、誰もが毎日使用する「手指消毒剤」なので、自分に合った目的の商品を上手に見つけて健康的な毎日を送って欲しいと願うものである。(写真・文/渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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