[第53回]「お好み焼きミックス」はソースメーカーと製粉メーカーの争い。食べ比べの結果は?「PB」で活躍する昭和産業。ブルドックは「もんじゃ」で対抗!

 「プレミックス」という言葉をご存じだろうか。英語だと「Prepared Mix」。つまりあらかじめ調味料や膨張剤などを、用途に応じて小麦粉などの穀粉類に配合した粉商品のこと。こう言うとわかりにくいが、ホットケーキミックスを思い浮かべてもらえればすぐにわかるだろう。今回のテーマは、このプレミックスのカテゴリーから、「お好み焼きミックス」を取り上げようと思う。

 『日経POS情報POS EYES』では、商品分類の大分類に「プレミックス」があり、その下に8種類の小分類がある。「たこ焼き」や「クッキー」、「パン」や「蒸しパン」など様々なプレミックスの中で、最も売れているのが今回取り上げる「お好み焼きミックス」で、2位に「ホットケーキミックス」、3位に「たこ焼きミックス」と続く。
 そこで、今度は商品分類に「お好み焼きミックス」を設定し、昨年2020年7月から2021年6月までの1年間で、最も売れた「お好み焼きミックス」を調べてみた。使用したPOSデータは、同期間に日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したもので、ランキングTOP20をまとめたのが下の(表1)である。

 販売金額の指標として「千人当り金額」を掲載しているが、その数字を見ればわかるとおり、第1位と第2位が売れ行きが頭抜けており、この2者でトップを競り合っている。 
 第1位『お好みフーズ オタフク お好み焼こだわりセット 4人前』のメーカーは、お好みフーズ株式会社(広島市西区)で、お好み焼き用の『オタフクソース』で知られるオタフクソース株式会社(広島市西区)のグループ会社である。お好み焼きの関連材料を販売する会社で、お好み焼きが売れれば、オタフクソースも売れるというグループ全体の相乗効果をもたらす存在の会社である。第2位『日清F お好み焼粉 500G』のメーカーは日清フーズ株式会社(東京・千代田区)で、こちらは日清製粉株式会社(東京・千代田区)のグループ会社である。その名の通り、小麦粉、ライ麦粉など、加工食品の原料となる粉を生産するメーカーのグループ会社で、その粉を使用した加工食品の製造・販売をする。

こちらは第1位の商品。左上のオタフクのマークが示すとおり、オタフクソースのグループ会社による商品である。

こちらは第2位の日清フーズの商品。和のムードが漂うパッケージ。パッケージにお好み焼きの写真が入っていないのは珍しいので、これも売り場では目立つ。第1位、第2位の両商品は、どちらもどのスーパーにも陳列されていた。

 第1位、第2位どちらの商品も、お好み焼きの要素として重要な「ソース」そして「小麦粉」のメーカーのグループ会社が作るプレミックスで、その視点で(表1)を再度見直してみると、多くの「お好み焼きミックス」は、いわゆる“ソース屋”が作るか、“粉屋”が作るか、どちらかの商品であることがわかる。

 例えば、第3位『ブルドック 月島もんじゃ焼 ソース味 81.3G』のメーカーは、誰もが知ってる『ブルドックソース』のブルドックソース株式会社(東京・中央区)である。オタフクソースが関西の「お好み焼き用」ソースが主力なので、ブルドックソースは、東京・月島の「もんじゃ焼き」で対抗したのだろうか。その真意はわからないが、どうしてもそのように見てしまう。実際、同社のホームページの商品情報を見ると、プレミックスではやはり「もんじゃ焼き」が主流でラインナップの多数を占める。とはいえ、ランクインはしていないものの、ブルドックソースからも、お好み焼きのプレミックス商品も発売されているし、お好み焼き用のソースも発売されていることも付け加えておこう。

左がランキング第3位『ブルドック 月島もんじゃ焼 ソース味 81.3G』、右が第4位『お好みフーズ 韓国風お好み焼 チヂミ 140G』。どちらもソースメーカーが作るプレミックスである。

 一方で第5位や第7位の商品のメーカーである「ニップン」と「昭和」。ニップンは昨年までは日本製粉株式会社で知られ、現在の社名は株式会社ニップン(東京・千代田区)。日本を代表する製粉業の最古参で、その名のとおりまさに“粉屋”である。昭和は、昭和産業株式会社(東京・千代田区)で、こちらも小麦粉や植物油などの製造・販売を事業の中核とする会社で、やはり日本を代表する“粉屋”である。

 (表1)のデータをメーカー別に見ると、シェア第1位は日清フーズで、第2位がお好みフーズ、そして第3位にブルドックソースと続く。とはいえ、商品ランキング同様に、第1位と第2位の日清フーズとお好みフーズが頭抜けていて、つばぜり合いをしている構図になっている。ちなみに、第4位に自社開発商品(PB)を挟んで、以下ニップン、昭和産業と続く。

AJSのPB『くらし良好』。各スーパーそれぞれにPB商品があったが、その製造元を見ると「昭和産業」が多かった。

 さて、ここで第4位に自社開発商品(PB)が入っているが、これはいろいろなPB商品をまとめて集計した結果なので、一つひとつのPB商品の販売状況はわからない。ただ、いずれにせよ、あまり表には登場しないもののPB商品にもメーカーはあるわけで、実際のメーカーの本当のシェアは、PBやOEMにどのくらい食い込んでいるかによって変わってくることは考えられる。なので、記者はいつもPB商品のメーカーはチェックすることにしているのだ。

 今回、7つのスーパーを見て回り、『トップバリュ』や『くらし良好』、『みなさまのお墨付き』といった有名なPB商品のそれぞれ複数商品のメーカーをチェックすると、その多くに「昭和産業」の名前を確認できた。つまり、メーカーシェアでは第6位の昭和産業だが、多くのPB商品の提供をしており、プレミックスのメーカーとしての実力はかなりありそうである。

イオンのPB『トップバリュ』の商品の製造所の記載。やはりこれも「昭和産業」。

 ちなみに、昭和産業ブランドで唯一TOP20にランクインしている第7位『昭和 おいしく焼ける魔法のお好み焼粉 100GX4』(写真)は、ネーミングも、パッケージのデザインもダントツにカワイイ(下写真2枚参照)。しかもパッケージ裏に書かれている作り方の説明が、とてもビジュアル化されていてわかりやすく、好感が持てる商品である。作り方は、豚肉を生地に重ねて焼くタイプ。“生地に混ぜる派”の人もいるだろうが、今回記者が購入した商品では、“生地に重ねる派”が多数で、“生地に混ぜる派”のレシピが書かれていた商品は、日清フーズだけだった。

左が第7位の『昭和 おいしく焼ける魔法のお好み焼粉 100GX4』、右が第8位の『ニップン ニップン 本場大阪お好み焼粉 500G』。左の昭和産業は、デザインが可愛く売り場で非常に目立つ。

第7位の商品は、レシピも丁寧で、焼くときの生地の直径を計るメジャーまでパッケージに付いていて面白い。子どものいるご家庭には、ウケが良さそうな商品である。

 また、どのプレミックスにも、生地を膨らませるためのベーキングパウダーが入っているが、ベーキングパウダーにミョウバンを使用していると、アルミが含まれているために、「身体に悪くないのか」との心配の声もある。その点を各社のホームページで調べてみると、ニップンと昭和産業のサイトには、アルミについての言及があった(下写真)。記者が見たところ、他メーカーにはこのような言及は見つけられなかったが、見落としもあるかもしれない。安心・安全に意識が高まっている今、こうした食品添加物にも少し気を付けてみて欲しい。

昭和産業のサイト内の「よくあるご質問」コーナーには、商品に使用されているベーキングパウダーのアルミ使用の有無についての説明があった。この点、説明のないメーカーもある。

1位、2位の食べ比べは「●●」の勝ち!? 山芋の有無は大きい

 さて最後になるが、今回は頭抜けて売れている第1位と第2位の商品を食べ比べてみた。もちろん、頭抜けている理由には味以外の要素も数多くあるだろう。この連載をいつも読んでくださっている読者であれば、(表1)の一番右の欄の「カバー率」が、この第1位と第2位の2商品だけが圧倒的に高いことにも気が付いているはずだ。カバー率が高いということは、それだけどこの売り場にも陳列されているということ。このトップ2商品は、この「カバー率」がどちらも97%を超えており、これはもうほぼどこにでも置いてあるレベルの数字である。つまりこの両社は営業力が高いということを意味する。これも売れる理由としては非常に大きい。とはいえ、メーカー別シェアでも頭抜けている両社の、トップの2商品、ちょっと食べてみたいではないか。

右がランキング第1位の『お好みフーズ オタフク お好み焼こだわりセット 4人前』、左が第2位の『日清F お好み焼粉 500G』。ソースメーカーのお好み焼きと、製粉メーカーのお好み焼きは、どちらが美味いか?

《お好みフーズ オタフク お好み焼こだわりセット 4人前》

 第1位の『お好みフーズ オタフク お好み焼こだわりセット 4人前』は、下の写真のように、パッケージの中には粉の他に、説明書(作り方の秘訣メモらしい)?、天かす、やまいもパウダー、青のりと、いろいろ入っていて、作る前から見た目にも楽しい。記者はお好み焼きには山芋を入れるので、添付のやまいもパウダーの効果には興味がある。この商品は値段的には割高だが、これだけいろいろ入っているからなのだろう。商品によっては、山芋の粉は、お好み焼き粉に混ぜてあるものもある。

 さっそく、お好み焼き粉にやまいもパウダーを水で溶いたものを入れ、そしてキャベツ、長ネギ、卵、そして天かすを入れて生地が完成。

 この商品のレシピでは、豚バラ肉は、生地の上に乗せて、裏返して焼くタイプなので、記者的には違和感がない。ちょっと驚いたのは、生地をホットプレートに乗せて、ジュワーと音がし始めたときから、この商品はいい香りが漂うのである。一体、何をやったんだろうという感じだった。

いつも自分で作るお好み焼きと似た仕上がり。山芋独特の軽くふっくらした食感がいい。

 無事完成して、最初の一口目の感想は、食感が軽い!そして、気になっていた山芋効果がバッチリ。口の中で噛むと、天かすの風味がジワーと効いてくる。使用したソースは、オタフクソース。これは全く問題なく美味しいお好み焼きである。

日清F お好み焼粉 500G》

 さて、第2位の『日清F お好み焼粉 500G』である。さきほどと同様に、まず生地を作る。しかしこちらは、豚バラ肉を生地に混ぜるレシピになっている(下写真参照)。今回は、それぞれのパッケージに書いてあるレシピ通りに作ることにした。

パッケージにあるレシピ通りで、こちらは生地に豚バラ肉を混ぜている。

 焼き始めると、こちらの商品も、ジュワーという音とともに、いい香りが立ち上る。さすがにプレミックスという物には、何か美味しそうな“魔法”がかけられているのだろうか。また、第1位の商品もそうだったが、本当にふんわりと膨らむこと!自家製では、山芋やはんぺんなどを入れて工夫をしても、なかなかこのようには膨らまない。

こちらの商品は、非常によく膨らむ。グッと厚く持ち上がる感じである。

 さてこちらも完成。膨らみは第1位の商品よりも大きいが、一口食べた印象では、意外と食感は重い。これは山芋効果だろうと記者は感じている。それから、バラ肉が生地の中に入っているためか、生地に肉の脂が溶け込んでいるような味を感じるのである。これは商品の問題ではなく、作り方の問題なのかもしれない。

 「プレミックス」という、手間や時間を少なく出来る商品の比較であることを考えると、第1位の商品に、天かすや青のり、そしてやまいもパウダーまで入っているのはありがたい。また、たまたま肉を重ねる焼き方や、山芋を入れるなど、記者の好みと一致する部分も大きかったが、食べ比べた印象では、第1位の商品の方が、第2位に比べ断然美味しかった。ただしいつも書いていることだが、食べ物の味に関しては、個人の好みがあるので、あくまでも一個人の感想として参考程度に聞いて欲しい。(写真・文/渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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