[第52回]あの会社の「果実缶詰」は、売り場の占有と金額シェアで他社を圧倒!“全て国産”国産みかんの使用で魅力的な「太洋食品」は第4位にランクイン!

 「缶詰」と聞いて、頭に思い浮かべるものは人それぞれだろう。シーチキン、鯖味噌煮、さんま蒲焼き、それともコーン、トマト。最近なら、カキの燻製とかタコのアヒージョといったバル風おつまみ缶も売り場を賑わせている。ところがそうした水産物、農産物、総菜等の缶詰とは一線を画し、売り場も全く違うところに分けられて売られている缶詰がある。それが今日のテーマ、「フルーツ缶詰」だ。

 この「フルーツ缶詰」は、店舗によって異なるものの、おおむね他の缶詰からは分けられて、「手作りお菓子」とか「手作りデザート」のコーナーに陳列されるか、あるいは独自の「フルーツ缶詰」コーナーを設置され、そこに置かれていることが多い。『日経POS情報POS EYES』では、「果実缶詰」という言葉で商品分類されているが、本稿中では「フルーツ缶詰」という言葉を使用する。まずは、さっそく販売状況から調べてみよう。

このように手作りデザートやジャムなどのコーナーの近くに陳列されていることが多い「フルーツ缶詰」。一般的な缶詰のコーナーを探しても見つからない。

はごろもフーズの『朝からフルーツ』だけは
     どのスーパーにも必ず置いてある!

 下の(表1)は、『日経POS情報POS EYES』を使い、日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集した、2020年7月から2021年6月までのPOSデータから、商品分類「果実缶詰」で検索し、販売金額によりランキングを作成したもの。要するに、この1年間で、最も売れた「フルーツ缶詰」のTOP20がこの表である。順位は「金額シェア」により決め、それが同値の場合は「千人当り金額」(表には掲載していない)の多寡により決めている。さらにそれも同値の場合は同順位とした。


 表を一見して、オレンジ色と緑色が優勢なのがわかる。特にオレンジ色は上位に多く、緑色は10位以下に多い。そこに黄色と青が混ざっている。色分けはメーカー別で、上位に多いオレンジ色は、はごろもフーズ株式会社(静岡市駿河区)。案の定、メーカー別のシェア第1位である。一方、緑色カーギルジャパン合同会社(東京・千代田区)で、メーカー別シェア第2位だが、第1位とはシェアで3倍近い差がある。そして第2位以下のシェアの差は小さい。つまり、「フルーツ缶詰」市場では、圧倒的に「はごろもフーズ」の商品が売れていて、以下は“だんご状態”で続いている状況なのである。
 商品別に見ていこう。「順位」と「金額シェア」を見比べると、第1位と第2位のはごろもフーズの2商品『はごろも 朝からフルーツ ミックス 缶 190G』と『はごろも 朝からフルーツ みかん 缶 190G』(下写真)が、頭抜けていることがわかる。この状況は、売り場を見て回ると納得がいく。今回、10軒のスーパー巡りをしたが、「フルーツ缶詰」の品揃えは、店舗によりまちまちで、しかもランク上位の商品でも置いてない商品も多かった。そのような中、この2商品だけは、10軒のスーパーすべての売り場に陳列されていたのである。つまりどこに行っても必ず売っているのがこの2商品なのだ。

ランキング第1位(左)と第2位(右)。この2商品は本当にどこにでも売っている。記者の家の近所で、缶詰などほとんど置いてないドラッグストアにさえ、この2商品だけは置いてあった!驚きである。

 この売り場の状況は、(表1)の右端の「カバー率」の数字からもうかがい知ることができる。「カバー率」とは、商品の販売実績があった店舗の比率を表す数字で、それは裏返すと、メーカーがどれだけ多くの店舗に商品を陳列させることができたかを示すもの。(表1)では、この2商品の「カバー率」数字は圧倒的で、どちらも90%台の半ばである(表1の赤字部分)。ちなみにそれに次ぐ数字は、第11位のやはり「はごろもフーズ」の商品で56.9%、その次が第9位の株式会社ドール(東京・千代田区)の商品の47.5%だが、TOP20の20商品のうち、13商品は10%台かそれ未満と非常に低いカバー率となっている。

見ての通り、売り場の大半は、「はごろもフーズ」で占められている店舗も珍しくない。

 先ほど、「メーカー別シェアではカーギルジャパンが第2位」という話をしたが、同社の商品は、記者が今回見て回ったほとんどのスーパーには陳列されておらず、あったのはイオン系のスーパーだけだった。もちろん記者が見た狭い範囲のことなので、その状況がすべてとは限らないないが、イオンはスーパー最大手なので、これまで扱ってきた商品でもそうだったが、仮にイオンだけに陳列される商品でも、それだけでメーカー別シェアで上位に来ることは十分に考えられる。それだけイオンの販売力は大きいのである。カーギルジャパンは、かつて会社更生法が適用された株式会社東食と、その更正に出資したアメリカの穀物メジャーの1つカーギル社の日本法人が合併してできた会社で、主に食品、農産品、金融商品、工業用品および関連サポートを扱う商社である。
 またランキング第3位の『双日食料 サンクレスト みかん 缶 425G』第8位の『今津 中国みかん 缶 4号』第20位の『三菱食品 リリー みかん 435G』は、結局、10店舗で1度も見かけることはなかったし、表で青色に色分けしている加藤産業株式会社(兵庫県西宮市)の商品も『カンピー』というブランド商品こそいくつか見かけたものの、ランクインしている同社の3商品については1つも見つけることができなかった。

結局、10店舗を回ってみて、ランクイン商品で入手できたのはこの7品。とはいえ、一番左の商品は、第4位『太洋 金太洋みかん シラップづけライトL 435G』のサイズ違いなので、厳密には6品だった。

 このようにランクイン商品がなかなか店舗で見つけられないのは、スーパーの系列によって、あるいは地域によって置いている商品が大きく異なる場合などが考えられるが、そうした系列や地域などに全く左右されず、全国どこでも、どのスーパーにでもあるのが、第1位と第2位の「はごろもフーズ商品」だということなのだろう。だからこそメーカー別でダントツになるわけである。

「フルーツ缶詰」で多いのは、圧倒的にみかん。そしてパイン、桃の缶詰が多く陳列されている。この写真のスーパーがどこなのか、ここまでの記事をよく読めば、少なくとも系列はわかるはず。

 ちなみに、TOP20にランクインしている「フルーツ缶詰」のフルーツの種類を見てみると、最も多いのが「みかん」の11商品で、以下「パイン」の7商品、「桃」の4商品というなった(あくまでも商品名に「みかん」や「桃」の文字のある商品を数え、第11位の「パイミン」については、パインとみかんの両方でカウントした)。

目立つ「ドール」と老舗の「サンヨー」、「K&K」
     国産みかんだけで製造する「太洋食品」の味は魅力的!

 さて、(表1)のTOP20ランクイン商品でさえも、多くの売り場になかったわけだが、逆に多くの売り場で比較的よく見かけた商品の話をしてみたい。ランクインしている商品では、はごろもフーズ商品の次によく見かけたのは、第7位、第9位のドールの商品だった。『Dole』のロゴは、おそらくほとんどの人は見たことがあるはず(下写真)。

売り場の状況や「カバー率」から見て、はごろもフーズに次ぐ「フルーツ缶詰」のナショナルブランドは、この「ドール」なのかもしれない。とにかくトロピカルな明るさが目立っている。

 ドール社は、バナナやパイナップルを中心に、野菜や果物を生産・販売するアメリカの多国籍企業で、その日本法人が同社だ。伊藤忠商事の傘下にあることもあり、缶詰のフルーツは伊藤忠商事が輸入している。同社のフルーツ缶詰は、きれいな青空を背景に、鮮やかな黄色のパインなどを配した、他社のフルーツ缶詰とは全く異なるトロピカルな雰囲気で、売り場でも非常に目立つ。(表1)の「カバー率」からもわかるが、おそらくはごろもフーズの次に、どこででも手に入る「フルーツ缶詰」は、このドールの商品だと思われる。

左、国分グループ本社の創業は同社サイトによると「1712年」。つまり創業300年を越す!右、サンヨー堂も創業140年を越す老舗。どちらの商品も多くの売り場に陳列されていた。

 またTOP20に商品はランクインはしていないが、今回、比較的多くのスーパーで見かけたのが、『SUNYO』のロゴで知られる株式会社サンヨー堂(東京・中央区)の商品と、『K&K』ブランドで有名な国分グループ本社株式会社(東京・中央区)の商品である(上写真)。記者の幼い頃からの記憶でも、フルーツ缶詰と言うと、この『SANYO』か『K&K』という印象が強く残っているのは、おそらく売り場でよく見かけたからなのだろうが、それというのも、実は両社とも非常に長い歴史を持つ老舗企業なので、記者が子どもの頃には、もうすでに多くの缶詰を売り場に並べていたに違いないのだ。

第4位の商品のメーカー「太洋食品株式会社」のサイト。国内産みかんが売りで、同社のみかんの缶詰は、すべて国産みかんを使用している。

 最後に、第4位にランクインしながら、ここまでまったく話題にならなかった『太洋 金太洋みかん シラップづけライトL 435G』のご紹介をしよう。「フルーツ缶詰」の多くは、原材料のフルーツに輸入物を使用しているが、この第4位商品のメーカーである太洋食品株式会社(長崎県島原市)は、同社ホームページ(上写真)によると「地元島原の海の恵みや山の恵みを缶詰製品にして消費者に届ける」会社で、同社のみかんや甘夏みかんの缶詰は、すべて国産品を使って自社で製造している
 実は、本稿トップのフルーツカクテルの写真は、この『太洋 金太洋みかん シラップづけライトL 435G』を使用しているが、他のどの商品よりも、みかんの味が濃くて、少しすっぱく“みかんらしさ”を主張する。逆に言うと、他の商品が甘すぎるのである。みかんの缶詰を食べ比べることはあまりないだろうが、同時に比べるとはっきりとわかる。特に第2位の『はごろも 朝からフルーツ みかん 缶 190G』のみかんはとても甘い。同じはごろもフーズの商品でも、第6位の『はごろも 国産みかん 缶 295G』の方が、まだ少しはみかんの味がする。また第5位のカーギルは、何かみかん以外の雑味を感じる。

これは第4位『太洋 金太洋みかん シラップづけライトL 435G』のサイズ違い。長崎のメーカーなので、九州エリアでは、はごろもフーズをおさえて、シェア第1位の強さを見せている。

 このようなわけで、「フルーツ缶詰」の“メーカー”の多くは、実は“輸入者”や“販売者”であるのに対し、この太洋食品は「製造者」として缶のラベルに記載されている。つまり本当の意味でメーカーなのである。今回は、1軒のスーパーでだけ、第4位の商品のサイズ違いを見つけることができた。数は少ないが、このように国産フルーツを使用しての「フルーツ缶詰」もいくつかのメーカーから販売されているので、購入の際は、そこに注目するのも面白いかもしれない。(写真・文/渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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