[第51回]“とろける”が主役の「スライスチーズ」。強い「雪印メグミルク」に挑む「明治」の“味の良さ”と“とろけ方”は魅力!六甲バターや森永乳業はPBへの提供も。

 「日本のチーズ市場は、プロセスチーズとナチュラルチーズでほぼ二分しており、ややプロセスチーズが優勢だ」という話は、実は本連載の第31回「一口サイズプロセスチーズ」の記事に書いた。そのときは、大分類「プロセスチーズ」の中でのシェア第1位ということで、「一口サイズ」の方を選んだのだが、今回は、同じくシェア第2位の「スライスプロセスチーズ」をテーマにした。

 プロセスチーズを、一口サイズにするか、薄くスライスするかの違いだけなので、メーカーのシェアには大きな違いがないかと思いきや、意外と違う結果になった。まずは、さっそく『日経POS情報POS EYES』を使って、何が売れているのか、ランキング表を見てみよう。

 上の(表1)は、直近の1年間(2020年7月~2021年6月)で、どの「スライスプロセスチーズ」が売れたのかを表すランキング表である。同期間に日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したPOSデータを使い、商品分類「スライスプロセスチーズ」で検索し、その「金額シェア」によりランキングを作成。「金額シェア」が同一の場合は、「千人当り金額」を参照し、その多寡により順位を決めている。POSデータの商品分類上は「スライスプロセスチーズ」であるが、通常は「プロセス」をわざわざ言わない「スライスチーズ」という言葉が定着しているので、以下は「スライスチーズ」と呼ぶことにする。

売り場で感じる、雪印メグ vs 明治の一騎打ちの様相

 表を見ると、赤と黄色の欄が非常に多いことがわかる。赤は株式会社明治(東京・中央区)の商品、黄色は森永乳業株式会社(東京・港区)の商品である。そしてランクインしている商品の数こそ少ないが、第1位、第2位、第4位と上位を占めているのが、青の雪印メグミルク株式会社(東京・新宿区)の商品だ。この3社以外でTOP20にランクインしているメーカーは、第15位の六甲バター株式会社(神戸市中央区)しかない。

♫スライスチーズは雪印♫ というだけあって、強い「雪印メグミルク」。この3商品だけで、4分の1近いシェアを占めている。

 「一口サイズプロセスチーズ」のときは、この六甲バターがメーカー別のシェアではトップで、それを追いかける雪印メグミルクという構図だったが、今回の「スライスチーズ」では、六甲バターはメーカー別で第5位にとどまった。では今回、メーカーのトップはどこだったのか。上の表を見る限り、明治か森永乳業かと思うかもしれないが、実はトップは青の雪印メグミルクである。追随する第2位は明治で、第3位に自社開発商品(PB)を挟んで、第4位に森永乳業と並ぶ。
 数では、TOP20に3商品しかランクインしていない雪印メグミルクだが、その3商品の「金額シェア」を合計すると23.2%にもなる(上写真)。その3商品だけでシェアの4分の1近くを占めているのだ。しかも、実は発売している商品のアイテム数を見ると、明治や森永乳業、六甲バターと比べ、雪印メグミルクは最も少ないが、最上位の方を占めることで、少ないアイテムながら確実に販売実績を出しているのである。その強さの秘密は、おそらくいろいろとあるのだろうが、少なくとも(表1)のデータを見る限りでは、圧倒的な営業力がうかがえる。というのは、表の一番右の「カバー率」を見てみると、雪印メグミルクの3商品だけが圧倒的に高い数字をたたき出しているからだ。この連載を毎回読んでいただいている読者の方にはすでにお馴染みの「カバー率」。これは「対象商品の販売実績があった店舗の比率」を示す数字で、つまり「各メーカーが、どれだけ多くの店舗の棚に商品を陳列できたか」=「メーカーの営業力」を示す数字なのである。

雪印メグミルクの3商品と対決するかのような、明治の3商品。こちらも、第3位、第5位、第7位と、雪印メグミルクに負けず劣らず強い。

 (表1)で赤字で記した雪印メグミルクの3商品のカバー率は、いずれも90%以上で、その次に高い数字は第5位の明治の商品で53.4%。雪印メグミルクのカバー率がいかに突出しているかわかるだろう。実際に10店のスーパーの店舗を見て回ると、この数字を実感できる。10店のうち、雪印メグミルク商品を置いてない店は1店だけだったが、それに対し、明治の商品は4店が扱っていなかったのだ。それでも、10店を巡ってみて、この「スライスチーズ」市場は、“雪印メグミルクと明治の一騎打ち”だろうという雰囲気をひしひしと感じ取ることはできた。両社の商品は、いかにも比較対照されるように配置されていることが多いからだ。また意外と目立っていたのはPB商品。スーパーによって置いてあるPBは異なるが、どの店舗でも、ナショナルブランド商品より大量に積まれていることが多かった(下写真)。逆に、「カバー率」の割に、今回あまり見かけなかったのは、第15位の六甲バターの商品だった。

PBは、スーパーにより、いろいろ異なるが、ナショナルブランドよりも、どっさりと陳列されて売られている。写真は、株式会社シージーシージャパンのPB「CGC」のスライスチーズ。

同じブランドなら“とろける”方が売れている!

 ところで、ランクインしている各メーカーの商品をメーカー別、ブランド別に眺めてみると、ちょっと面白いことに気が付かされる。というのは、同じブランドのスライスチーズでは、いずれも“普通の”スライスチーズよりも、“とろける”スライスチーズの方がランクが上位になっているのである。例えば、雪印メグミルクを見ると、第1位と第2位がその関係にある。明治なら、第3位と第5位、第9位と第14位、第11位と第16位が、さらに森永乳業なら、第6位と第10位、第8位と第18位が、すべて同様に、“とろける”方が上位になっているのである。

同じブランドで、上下に“普通の”スライスチーズと、“とろける”スライスチーズを並べてみた。いずれも、“とろける”方のスライスチーズが売れている。

 この2種類のスライスチーズ、何が違うのかというと、“とろける”方は、主にモッツァレラチーズを原料にしたプロセスチーズで、熱を加えると糸を引くほどに溶けて、熱を加えた方が美味しく食べられるもの。一方の“普通の”スライスチーズは、主にゴーダチーズやチェダーチーズを原料にしたプロセスチーズで、熟成が進んでいて熱を加えなくても味や香りがいいもので、こちらは熱を加えると柔らかくはなるが、糸を引くように伸びることはない。

 それぞれの商品のパッケージ写真を見ると、“とろける”方は、トーストやピザトーストで使うイメージ、“普通の”方は、サンドイッチにハムなどと一緒に挟んで焼かないで食べるイメージになっているのは、それぞれのチーズの原材料の違いからくる特性を活かした食べ方を提案しているということなのだろう。その中で、今回気になったのが、第4位に入っている『雪印メグミルク こんがり焼けるとろけるスライス 7枚 126G』である。これは“とろける”スライスチーズの進化版なのだろうか。その名の通り、とろけたチーズが美味しそうにこんがりと焦げているのがパッケージのイメージ写真にある。本当にこうした違いが生じるのか、試しにやってみた結果が下の写真である。

同じ時間、オーブントースターに入れたのに、左の第4位『雪印メグミルク こんがり焼けるとろけるスライス』の方は、まさにこんがりと焦げ目が付いた。見るからに香ばしく美味しそうである。

 同じ時間、オーブントースターで焼いて、途中チーズの様子を観察すると、『雪印メグミルク こんがり焼けるとろけるスライス 7枚 126G』の方は、まるで餅のように膨らんできて、そしてあっという間に表面に焦げ目が付いたのである。味も普通のとろけるチーズとは少し趣きが異なる。原料のナチュラルチーズの種類や配分が微妙に異なるためなのだろうか。それとも、この商品にだけは「調味料」が入っているからなのか。

 “普通の”スライスチーズから、“とろけるスライスチーズへ、そしてさらなる差別化で、“こんがり焼ける”スライスチーズへと進化。雪印メグミルクのサイト内の「スライスチーズの歴史」というコーナーを見ると、スライスチーズ誕生が1962年、そこから25年経って“とろける”スライスチーズが誕生、さらに25年経った2012年に“こんがり焼ける”スライスチーズが誕生している。この進化には、50年もの長い年月が費やされていたのである。

 同じように、進化という意味では、明治も負けてはいない。第3位の“普通の”とろけるスライスチーズに対し、第7位の『明治 北海道十勝 とろけるスライス 濃い味 7枚 126G』を登場させている。前述したように、とろけるスライスチーズは、原料にモッツァレラチーズを使い、少々味わいが軽くなるので、その部分を補うために、「濃い味」を登場させたのだろうと思われる。実際に食べ比べてみると、確かに「濃い味」の方が味わいが深くいい感じなのだが、それ以上に、実は食べ比べで感じた違いがある。

 それは、雪印メグミルクと明治の違いである。全体的に、雪印メグミルクのスライスチーズは明治のスライスチーズよりも、そもそも味が薄い感じがする。と同時に、とろけるタイプのとろけ方が、明治の方が自然に溶ける。雪印メグミルクのとろけるタイプは、確かに溶けるのだが、四角い形が残り、その中だけが溶けるイメージ。それに対し、明治の方は、全体がグシャーと崩れる。ピザトーストなどに使うなら、グシャーと崩れる明治の方が、断然美味しそうに見えるのだ。
 これまで雪印メグミルクのスライスチーズは、ある意味、日本のスライスチーズのスタンダードとして、多くの人が「こんなもの」だと思っていた商品なのだろうが、そういう方も一度、明治のスライスチーズを味わってみて欲しい。ひょっとしたら、スタンダードが変わるかも知れないからだ。いつも断っているが、食べ比べの感想は、あくまでも個人的なものとして受け取って欲しい。

 差別化という意味では、第15位の『六甲バター QBB 大きいとろけるスライス 7枚 126G』は、面積がひと回り大きく、通常のスライスチーズの1.2倍の面積のスライスチーズである。これが魅力的と感じるのか、そうでもないのかは、記者には判断できないが、QBBブランドのチーズは、確実にファンもいることだろう。

森永乳業の2つのブランド「クラフト」と「家計応援」。どちらも製造は、森永乳業の子会社のエムケーチーズが担っている。

 森永乳業のスライスチーズは、「クラフト」ブランドと「家計応援」ブランドがランクイン(上写真)しており、「家計応援」の方が少し安い価格のブランドになっている。どちらのブランド商品も、森永乳業はあくまで販売者で、製造はエムケーチーズ株式会社(神奈川県綾瀬市)である。この会社は、森永乳業の子会社で、アメリカの食品総合メーカーであるクラフト・ハインツ社との合弁企業で、「クラフト」ブランド商品の輸入・製造などを行っているほか、PB商品への製品提供も行っている。

AJSののPB「くらし良好」の製造者は、六甲バター。「一口サイズプロセスチーズ」では人気の同社の商品だけに、その品質も期待できる。

 最後になるが、今回いくつものPBのスライスチーズを見つけたが、AJS(オール日本スーパーマーケット協会)のPB「くらし良好」のスライスチーズは、六甲バターが製造している商品で(上写真)、味も間違いなくQBBのものだった。「一口サイズプロセスチーズ」ではメーカーシェアトップの六甲バターは、今回は、あまり表には出てこないが、こうしてPBでの製品提供も行っているわけで、これがどのくらいの規模なのかは非常に気になるところ。PBやOEMによる製品提供の比率が高くなると、メーカーとしての“実力”は、どうしてもその陰に隠されてしまう。少しでも、そのあたりを知るために、記者はいつもPBやOEM商品の製造者を、いちいちチェックしているのである。(写真・文/渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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