[第48回]「ベーコン」販売金額ランキングTOP20。ハム大手4社の中に食い込んだ“黒塗り商品”は何?「くん液」に漬けない「発色剤」も入れない商品の正体は?

 山暮らしをすると、ときおりイノシシや鹿の肉が手に入ることがある。それを塩水に漬け、風にさらして乾燥させ、燻(いぶ)す。美味しい燻製の出来上がりだ。梅雨が明ければ、温燻(おんくん)のシーズン。今回のテーマは「ベーコン」である。

 冒頭の話は「ベーコン」と何の関係があるのだろうと思う人がいるかもしれない。アウトドアにも、燻製にも興味がなければ、それもやむを得まい。「ベーコン」は豚肉(日本では主にバラ肉)の燻製である。豚バラ肉を塩水に漬け、乾燥させ、煙をかけて作る。煙をかけることから、燻製を作ることを「スモークする」とも言う。スモークすることで独特の風味が生まれ、同時に殺菌・防腐作用をもたらし食材は保存食にもなる。気温が低い冬は「冷燻(れいくん)」という温度の低い状態でのスモークでスモークサーモンや生ハムを作り、夏は「温燻」という温度の高い状態でのスモークでベーコンやビーフジャーキーを作る。記者は燻製作りが趣味だ。これから秋までは「ベーコン」のシーズンである。
 ところが、スーパーなどで売られている比較的安い「ベーコン」の多くは、スモークされていない煙の成分が入った液体(木酢液、以下くん液)に漬けて簡単に作られることが多いのだ。スモークする手間暇を省略してコストを引き下げるのと同時に、くん液に漬ける方が肉の品質をごまかし易いからである。記者は以前、食肉加工業界の取材をした際に、あるメーカーの幹部からオフレコで「食肉加工というのは、安くてマズい肉を、どれだけ美味そうに見せることができるかが腕の見せ所だ」という話を聞いたことがある。加工のプロセスが多いと、そうした“ごまかし”がやりやすいというのだ。その話は今でも脳裏にはっきりと焼き付いている。
 さて、ここまでざっくりと書いたことは決して無駄話ではない。最低、このくらいの“予備知識”は持っていないと、「ベーコン」の話はよくわからないことが多いからだ。さっそく、今回もまずは売れ筋のランキングを見ていこう。

メーカー別ではPBがトップ!多くはスモークしていない!

 下の(表1)は、『日経POS情報POS EYES』を使用し、全国のスーパーから日本経済新聞社が独自に収集した2020年7月~2021年6月の1年間のPOSデータから、商品分類「ベーコン」で検索し、販売金額により上位20位までをまとめたものである。順位は、「金額シェア」により決めるが、それが同率の場合は「千人当り金額」(表には記載していない)の多い方を上位にし、それも同じ場合は同順位としている。

 表を見ると、いくつか目に付くことあるだろう。1つは表に黒塗りがしてあること。本稿の冒頭に掲載した写真に写る5種類のベーコンは、今回食べ比べてみた商品で、写真に書いてある順位は、上の(表1)の順位である。これで写真の1位と3位はわかっただろうが、残る2位、18位、そして表にない61位の商品はわからないままだ。この謎解きは後述する。
 そしてもう1つ。(表1)で目に付くのは、赤・青、緑・黄の4色の色分けだろう。これはメーカーによって塗り分けを施している。この4色の4メーカーとは、日本のハムメーカーのいわゆる“大手4社”である。誰もが聞いたことがある日本ハム株式会社(大阪市北区、以下日ハム)伊藤ハム株式会社(兵庫県西宮市、以下伊藤ハム)プリマハム株式会社(東京・品川区、以下プリマ)丸大食品株式会社(大阪府高槻市、以下丸大)のことで、この順に売上高が大きい。しかし(表1)の「ベーコン」の販売では、プリマ、伊藤、日ハム、丸大の順のシェアになっており、この4社の上にトップシェアの自社開発商品(PB)が来る。PB個々のブランド名やそのシェアはわからないが、それが合計されると大手4社を上回るということは、多くのPB商品がそれぞれ売れていて、しかも、今回売り場巡りをしてわかったが、PB商品の他に、地元産のローカルメーカーの商品も非常に多く店頭に陳列されているのだった。記者が住む八ヶ岳山麓では、信州ハム株式会社(長野県上田市、以下信州ハム)の商品が非常に多く、他にも八ヶ岳界隈に居を構えるいくつもの小さな燻製工房の商品も目立っていた(下写真)。

八ヶ岳界隈のスーパーでは、地元・信州ハムの商品が多数陳列されていた。

 ここで最初に話した“予備知識”と関係ある話に入ろう。このランキング表の20商品うち、大手4社の大半の商品がスモークされず、「くん液」に漬けて作られている。それは商品パッケージの「原材料名」の表示に「くん液」と表示されていることでわかる。ところが大手4社以外の4商品(第2位、第6位、第15位、第18位)のうち、第6位の『フードリエ 角切りベーコン 250G』以外の3商品(第2位、第15位、第18位)は「くん液」を使用していないのである。つまりこれら3商品はスモークでベーコンが仕上げられている。
 本稿は「くん液」がダメとか、食品添加物の危険だとか、そうした類い記事ではない。しかも日本人はそれほど燻製や加工肉を大量に食する人種ではないので、結果的にそんなに健康に対しての危害にはならないのだ。ただ、それほど食べない燻製なら、せめて食べるときは“本物”がどういうものかを知り、本当に美味しいものを食べて欲しいと願っているだけなのである。
 それでは以下、再度冒頭の写真を見ながら、表の黒塗り部分の答えを発表しよう。

第18位『鎌倉ハム富岡商会 熟成ベーコン 90G』

 メーカー名は株式会社鎌倉ハム富岡商会(神奈川県鎌倉市、以下富岡商会)。創業明治33年の老舗で、日本のハム発祥の地・鎌倉の地名から、『鎌倉ハム』という名は、ハム製品の有名ブランドになっている。実は、このあたりの話は書くと長くなるので書かないが、『鎌倉ハム』には、明治時代にハムの製法を英国人から伝授された複数の日本人のもと、いくつものメーカーがあり、そのうちの1つがこの「鎌倉ハム富岡商会」というわけである。それぞれは全く別のメーカーで、商品も異なるので注意が必要である。本稿では間違いなきよう、「富岡商会」という略称を使おうと思う。

 この富岡商会の『熟成ベーコン』、食べてみると、スモークのかけ方はそれほど強くないことがわかる。比較的あっさり目で上品な味わいだ。特に肉の脂身の部分の味が素晴らしい。煙をかけるまでの、肉への塩加減、乾燥、熟成がいいのである。こういう味は、素人にはなかなか作れない。食べ比べのときに、5種類の商品を皿に並べ、しばらく室温でテーブルに置いておくと、第1位と第3位の商品は、脂身が崩れ、じきに赤身もクタクタになって崩れてきたが、この富岡商会の肉は、脂身もしっかり形状を保ち崩れなかったことが印象的である。上の写真でも、18位の肉質の良さが感じ取れるのではないだろうか。質の良さに比例するように、表の「100g当り価格」も20商品の中で、2番目に高い。

第2位『米久 原形ベーコンブロック 210G』 

 第2位のメーカー名は米久(よねきゅう)株式会社(静岡県沼津市、以下米久)である。この会社は、現在、伊藤ハム米久ホールディングズの傘下にあり、伊藤ハムとは同じグループ会社の関係にある。


 この第2位の商品は、表の右端の欄にある「100g当り金額」を見るとわかるとおり、比較的低価格な商品であるにもかかわらず、「くん液」の表示がない。つまりスモークで仕上げたベーコンなのである。念のため、記者は米久に直接電話を入れ、「当社の商品はすべてスモークしています」という返事を確認した。
 前述富岡商会のベーコンに比べると、口に入れて噛んだときに、やや後付け感のある味が記者にはどうしても気になってしまう。それでも第1位や第3位の商品よりは、美味しく食べられる感じがあるのは肉の違いなのだろうか。「100g当り金額」もかなり安く、それでいてスモーク製法で、味も第1位や第3位の商品より上である。なぜなのだろう。

第1位、第3位のベーコンの味は?

 最後に残った謎の「第61位」を発表する前に、第1位と第3位の商品について、軽く触れておこう。言わずと知れた伊藤ハム、プリマの商品で、どちらも「くん液」に漬けて製造されたベーコンである。食べてみると、第1位の商品の方が、第3位の商品よりはいいが、どちらも肉があまり美味しくない。特に第3位の商品は、ちょっと正直には書けないレベルだ。
 ちなみに味に関しては、どの記事でも書いているが、「あくまでも個人的な感想でしかない」ことはしっかりと断っておきたい。しかしテレビなどで、あまりにも恣意的な個人的感想が乱発されるグルメ情報が垂れ流されている昨今では、この記事程度の個人的感想は許容範囲だとは思うが。
 また余談ではあるが、この表に登場するベーコンのブランド名を見ると、「朝」「フレッシュ」「新鮮」「いつも新鮮」「新鮮生活」「彩り」というように、何としてもフレッシュで新鮮で、さわやかな朝の健康的な生活をイメージさせたいようである。ひねくれ者の記者は、そう言われれば言われるほど、きっと「そうではない」のだろうと勘ぐってしまいたくなる。

第61位『信州 グリーンマーク 厚切りベーコン 180G』

 さて、もう一度、冒頭の写真を見てもらいたいのだが、謎の「第61位」の商品だけ、あきらかに色が違うことがわかるだろうか。61位の商品以外はすべて、可愛いほどのきれいな「ピンク色」をしている。これは「亜硝酸ナトリウム」という発色剤を添加し、さらに色素を添加し、肉に色付けをして、色落ちを食い止めているからだ。それに対し、61位の商品は、そうした発色剤や色素を使用していない。こうした製法を「無塩せき」というのだが、これにより、肉本来の色そのままにベーコンが仕上がっているのである。 お待たせしました!謎解きです。この第61位の正体は、『信州 グリーンマーク 厚切りベーコン 180G』という商品である。メーカー名は既出の信州ハムで、ブランド名にある『グリーンマーク』は、「発色剤・着色剤・保存料・リン酸塩を使用しないでつくられた信州ハムの商品んび付けられるシンボルマーク」のことだという(下写真)。

信州ハムのサイトにある、『グリーンマーク』のブランドサイトより。

 実際に食べてみると、これは記者にとっては、全く普通のベーコンの味そのもの。いつも自分が作るベーコンの味と同じである。何の違和感もない。実は今回、第15位の信州ハムの商品を、ここで「黒塗り商品」として紹介したかったのだが、たまたま売り切れで入手できなかったのである。そこで、同じ『グリーンマーク』ブランドの商品が購入できたので、第61位の謎の商品として紹介することにしたのだ。第15位の商品は、(表1)の20商品では最も高い「100g当り価格」であるが、第61位の方は、内容量が180Gと多いためか、「100g当り価格」は260.2円となり、品質を考えれば、むしろお買い得商品のように記者には思える。

今回食べ比べをした、左から、第18位、第61位、そして第2位の商品。いずれも「くん液」に漬けないで、スモークして作られたベーコンである。

 ベーコンは、普段、食べるときには、カリカリに焼かれたり、いろいろな料理の中に具として放り込まれたりして、本当の味は意外とわかりにくい商品である。しかし、今回の食べ比べのように、買ってきて、何も付けることも、調理もせずに、素のまま食べると、恐ろしいほど味の優劣がハッキリとわかる商品でもある。ぜひ、一度、そうやって何も味付けなどせずに食べてみてもらいたい。きっと何かを感じるはずである。最後に、黒塗りを剥がした(表1)を再掲しよう。


 記者が子どもの頃は、ウインナーとは赤いものだった。しかし今となっては、赤いウインナーを買いたい人は少ないだろう。ベーコンも同様である。「可愛いピンク色のベーコンは買いたくない」と誰もが思う日が早く来て欲しいものである。(写真・文/渡辺 穣)

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記者

渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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