[第11回]昨年1年間で最も売れた「納豆」は?日本の納豆市場をリードする3社それぞれの生きる道!

 『日経POSランキング』、今回は「納豆」を取り上げる。この「納豆」という食品は、何か定期的に成分や効果が話題となり、テレビに取り上げられ、そしてブームになるという星の下に生まれたらしい。「花粉症に効果がある」、「ダイエットにいい」、「免疫力を高める」等々、その都度、納豆に含まれる納豆キナーゼだの、ビタミンKだの、5-アミノレブリン酸だのと、もっともらしく健康効果が紹介されるが、記者はそうしたことには実は全く興味がない。幼い頃から食べ続けてきて、体にいいことは自分の体が知っているうえに、体のために食べているのではなく、好きだから食べているだけのことだからだ。その「納豆」が今売れ行き好調で、市場規模は過去最高を更新中である。スーパーに行けば、たくさん並んでいる納豆。一体どの商品が、昨年一番売れたのだろう。

 さっそく『日経POS EYES』で調べてみよう。いつものように、日経が全国約460店舗のスーパーから独自に収集した昨年1年間のPOS データを、商品分類「納豆」カテゴリーで分類し、販売金額により、そのトップ20をランキングしたのが下の(表1)である。

(表1)

日本の納豆市場を牽引するツー・トップ

 この表を見ると、20位までに、ほぼ2社の商品しかないことがわかるだろう。なんとトップ20のうち、第1位も含め10個がタカノフーズ株式会社(茨城県小美玉市)の商品、9個が株式会社ミツカンホールディングス(愛知県半田市)の商品なのである。そして第20位にようやく、この2社以外のメーカー、あづま食品株式会社(栃木県宇都宮市)が登場する。この3社が登場順に、納豆業界の1位、2位、3位のメーカーだ。そして3位と4位との間には少し水が開く。今回、このランキング表は、これら3社の名前をすべて出すために、20位までを掲載したのである。

売り場の大半の面積を、タカノフーズとミツカンの商品が占めている。

 具体的に商品を見てみよう。おそらく日頃、納豆を食べる人であれば、どれも馴染みのある商品ばかりだろう。特に第1位の『タカノ おかめ納豆 極小粒 ミニ3 50GX3』は、納豆と聞けば、このパッケージの色と図柄が目に浮かぶほどの定番商品だ、と思うのは記者が東日本の人間だからなのだろう。というのは、“大雑把に言うと”、東日本では、茨城県に本社があるタカノフーズの『おかめ納豆』が売れているが、西日本では愛知県に本社があるミツカンの『金のつぶ』の方が売れているからである。この2社が日本の納豆市場を牽引し、3番手のあづま食品は、東でも西でも、まさに3番手という好位置に付け、我が道を行っているように記者の目には映ってしまう。こうしたデータは、各県により、また時期によって微妙に異なるので、“大雑把に言うと”とあえて曖昧な表現を用いたことを断っておきたい。

全国納豆協同組合連合会のサイト上にあるリサーチデータのグラフ。グラフが細かいので、詳しくは、こちらのリンク先へ。

 上のグラフは、業界団体である全国納豆協同組合連合会のサイトにある2019年6月実施のリサーチデータのページの一部である。興味のある方はそのページを見ていただければと思うが、そのリサーチ結果を見ると、従来ほどではないにしても、やはり東日本よりも西日本の方が、納豆を食べる頻度が少ない状況がわかる。逆に北関東~東北エリアでは納豆の消費が多く、タカノフーズが東の1番で、ミツカンが西の1番であっても、全国で見れば、タカノフーズが1番になっているのが現在の納豆市場なのである。ちなみに納豆の市場規模は約2500億円ほどで、東日本大震災で大きな打撃を受けた2011年を底に、2012年から2019年まで8年連続で増大し、特に2016年以降は過去最高規模を更新中である。さらに2019年に1世帯が年間に納豆を消費した金額は4238円で、仮に3パック入り価格が100円だとすれば年間42×3=126パック程度を1世帯で消費している計算になる。この平均的な消費量と比べて、あなたの消費量はいかがだろうか。

タカノフーズ、ミツカン、それぞれのブランド展開

 さて、(表1)のランキング表をもう少し詳しく見ると、タカノフーズのブランドはすべて『おかめ納豆』なのに対し、ミツカンには少なくとも「『金のつぶ』と『くめ納豆』と『なっとういち』の3つのブランドがあることがわかる。

 タカノフーズの『おかめ納豆』は、上の写真のように豊富なバリエーション展開がされている。大豆の粒の大きさや食感の違い、たれの味、香り、地域限定版など、いろいろなラインナップが楽しめるのは、さすがに” 東の横綱”たるメーカーである。変わったところでは、『発酵コラーゲン納豆』という、発酵のチカラで低分子ペプチドに分解されたコラーゲンが入った納豆や、『すごい納豆 S903 乳酸菌入りたれ付』(上記ランキング表第11位)という、選び抜いたスーパー納豆菌を使用するして免疫機能に対する機能性を高めた納豆の存在。こうした納豆の機能性を極めようとする、“スペシャル納豆”への取り組みは、納豆のプロとして進むべき1つの方向性なのだろう。そのための納豆研究所まで持つからこそできることで、これが『おかめ納豆』のブランド力を高めているのだろうと思う。そうした研究内容や取り組みの詳細は、『おかめ納豆サイエンスラボ』で読むことができる。

 一方、ミツカンのブランド商品サイトを見ると、確かに3つのブランドの納豆が存在することが確認できる。『なっとういち』は京阪神、中国、四国、長野県限定販売の、納豆の匂いを抑えた商品。たれもからしも、袋を切らずにプシュッと押すだけという点もセールスポイントになっている。ミツカンの商品は、このように、たれのかけ方で、プシュッと押したりパキッと折ったり、納豆の匂いを抑えることに工夫を凝らした商品が多いのも特徴である。それは、納豆という食文化の希薄な西日本で売るための苦労と工夫なのではないかと推測できる。そうした様々な工夫を盛り込んだミツカンのメインブランドが『金のつぶ』(上写真)で、『おかめ納豆』に負けないほどのバリエーションがそろっている。

『くめ納豆』ブランドには、ミツカンの他のブランドとは一線を画す高級感がある。

そしてミツカンの残る1つのブランド『くめ納豆』は、もともと茨城県に本社のあった納豆メーカー名で、2009年にミツカンがその営業権や商標権を買い取ったことで、ミツカンの納豆ブランドの1つになった経緯がある。その流れから、『くめ納豆』ブランドは、納豆の本場・水戸でも納得される本格的なクオリティの納豆のイメージを前面に打ち出しており、上記ランキングの9位、14位、19位にランクインしているように、消費者からも一定の評価を得ているようだ。詳しくは『くめ納豆』のブランドサイト見て欲しい。

国産大豆にこだわる『国産のあづま』

 さて、最後にランキング表の20位『あづま 朝めし太郎 極小粒 3カップ 40GX3』のメーカー、業界3位のあづま食品である。ランキング20位までで見れば、このわずか1商品だけのランクインだが、これを50位まで拡げると、そこには12商品がランクインしている。つまり21位~50位までの30商品中にあづま食品の納豆が11商品もひしめき合っているほど、中位ランクでのあづま食品は目立った存在なのである。

あづま食品の商品説明サイト。使用大豆によってラインナップを分類できる。写真は「国産大豆」のボタンを押したときに出てくる12銘柄である。

 そこで同社の商品案内サイトを開いてみると、ここにもタカノフーズやミツカンに負けないほど豊富な商品ラインナップが紹介されているのだが、それらが使用されている大豆の種類によって分類されていることに、まず驚かされた。大豆の種類は「国産大豆」「有機大豆「黒豆大豆」「バラエティ大豆」の4種類で、例えば「国産大豆」のボタンを押すと、国産大豆を使用している12銘柄の商品(上の写真)が見られるのである。

各社、「国産大豆」を売りにした商品を出しているが、あづま食品は、そこにこだわり続けている。

 昨今は、食の安全性や健康意識の高まりから、納豆を選ぶにも「原料の大豆は国産」という消費者が少なくない。その点、あづま食品の納豆は他のメーカーに比べ、国産大豆使用率が一番高く、別名『国産のあづま』とも呼ばれており、それが同社商品の大きな魅力になっている。こうした大豆へのこだわりは、同社サイトの「あづまのこだわり」というコーナーに詳しく出ているので、ぜひ一読して欲しい。創業が1950年(昭和25年)なので、今年が創業71年目。あづま食品は、本当に納豆一筋、納豆だけを作り続けている。

 今回の『日経POSランキング』は、「納豆」という日常的な商品のランキングから、各メーカーやブランドの横顔に軽く触れてみた。スーパーで商品を見たら、ちょっとこの記事を思い出して、納豆選びの一助になれば幸いである。

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記者

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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