[第22回]「抗ウイルス」で売る花王、「香りでごまかさない」を打ち出すP&G。「布製品用消臭・芳香・除菌剤」のトレンドは?

 今回の『日経POSランキング』のテーマは、「布製品用消臭・芳香・除菌剤」である。そう聞いて、多くの人が思い浮かべるブランド名は『ファブリーズ』、そして『リセッシュ』だろう。実際、記者もこの10年ほど、この2つのブランドの市場シェアをフォローしているが、多少の変化はあるものの、おおむねファブリーズ6割、リセッシュ3割、残り1割を他社で分け合っている状況は変わっていない。ところがシェアはさほど動かなくても、商品の中身や消費者が求める傾向は微妙に動いている。今回は「布製品用消臭・芳香・除菌剤」のそうした一番新しい「動き」について、データを見ながら探ってみたい。

6カ所の売り場を見たが、どこも『ファブリーズ』と『リセッシュ』が売り場の大半を占めている。

「詰替用」を除いたランキング・トップ15

 さっそく『日経POS EYES』でデータを引き出してみよう。「布製品用消臭・芳香・除菌剤」は、商品分類の大分類「消臭・芳香・除菌剤」の中の小分類の1つ。他にはキッチン用やリビング用、トイレ用、冷蔵庫用、生ゴミ用等々、多くの小分類が存在する。今回は、最新動向を見る目的があるので、データは、2021年3月の最新1ヶ月間に日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したものを使用。検索をかけてみると、販売金額ランキングのトップ15のうち、11商品がいわゆる「詰替用」商品で占められている。洗剤やシャンプーといった商品は、「詰替用」を売ることがメインのビジネスなので、こういう結果は予想できたが、これでは新しい動きはわからない。「詰替用」はリピーターの動向であり、いわば過去の売れ筋の蓄積のようなものだからである。そこで、このランキングから、「詰替用」を取り除き、「本体」だけの販売金額ランキング・トップ15を作成したものが、下の(表1)である。

 表の赤地の部分は『花王 リセッシュ』、青地の部分は『P&G ファブリーズ』で、「全体順位」というのは、「詰替用」を取り除く前の順位である。これだけ見ると、市場シェアトップのP&Gが、2位の花王にやや押されているように見える。前者が6商品ランクインしているのに対し、後者は7商品がランクインしているからである。そしてこの両者以外は2商品のみ。とはいえ、これはあくまでも今年3月だけの“瞬間風速”で、新商品登場のタイミングなどですぐに変化する。今回で言えば、ランキング第1位の『花王 リセッシュ 除菌EX プロテクトガード 350ML』は2月末に登場したばかりの最新商品で、他を圧してダントツで売れているが、この4月にはP&Gから『ファブリーズ』の最新商品(以下に述べる実験で詳述)が登場しており、まだこの表には反映されていない。2ヶ月後あたりには、トップが入れ替わることも十分に考えられるのである。

実験:「香りが残らない」は、本当に香りが残らないのか?

 それよりも記者がこの(表1)で注目したいのは、「香り」である。「消臭・芳香・除菌剤」といっても、消臭効果、除菌効果というのは、消費者にとっては実はわかりにくいもの。その点、「香り」は、嗅げばわかる。(表1)を見ると、第1位から第4位までは、すべて「香りが残らない」タイプで、さらに第5位と第11位の商品は、全くの「無香料」タイプなのである。つまり、今、消費者が「消臭・芳香・除菌剤」に求めているのは、余計な「香り」がしないことなのではないかと感じられるのだ。

第11位『白元 ノンスメル清水香 無香タイプ』は、もっとも潔く「無香」の商品。アルコールそのもののような商品で、スプレー後の乾きも圧倒的に早い。

 記者は以前より、「消臭剤」で新たに香りを付けるのは欺瞞ではないかと感じていた。臭いを消すというのに、別の“臭い”を付けるのは自己矛盾だろう。どうしてもそういう思いがあり、そういう思いで、『おためし新商品ナビ』サイトでも6年前に「消臭スプレーの比較記事」も書いている。そして今回も、その気になる「香り」についての実験してみたのである。

写真の8商品を、衣類にスプレーし、香りの残り具合を確かめる実験をしてみた。

 この実験には、ランキング第1位~第4位、それに第11位の5商品に、4月発売の『ファブリーズ』の新商品『ファブリーズ ダブル除菌+消臭 無香料 370ML』、比較のために第14位の『パネス ランドリン ファブリックミスト クラシックフローラル 370ML』と、前述の過去の記事でも実験したライオンの『ハイジア』の後継商品『ライオン トップ ナノックス 衣類・布製品の除菌・消臭スプレー 350ML』を加えた8商品を使用した。

 実験方法は簡単で、「それぞれの商品を布製品に通常使用するようにスプレーし、1時間後、6時間後、12時間後に匂いを嗅ぐ」だけのこと。その結果が下の(表2)である。

 表中、「表示」とあるのは、商品のボトルに書かれている「香り」についての表示である。

 まず、ボトルに「無香料」あるいは「無香」と表示がある商品は、香料が入っていないので、スプレーした直後から当然のように「無香」だった。なかでも第11位の『白元 ノンスメル清水香 衣類・布製品・空間用消臭剤 無香 400ML』は、まるで消毒用のエタノールそのものをスプレーしたかのようにアルコール臭が強い商品だった。

第14位『パネス ランドリン ファブリックミスト クラシックフローラル』は香りが売りの「コスメ」という位置づけの商品。他とは少々コンセプトが異なる。

 逆に第14位の『パネス ランドリン ファブリックミスト クラシックフローラル 370ML』は、「うっとりとするようなクラシックフローラルの香り」とボトルに表示されている「香りが売り」の商品だけあって、時間が経ってもしっかりと香りが残っていた。

ライオン『ハイジア』の後継商品の『トップ ナノックス』は、洗剤コーナーに紛れて売られている事が多く、「消臭・芳香・除菌剤」を買いに来た客からは認識されにくい状況が見られた。

 問題はボトルに「香りが残らない」と表示されている4商品だ。第1位、第2位、第3位の『リセッシュ』と『ファブリーズ』の「香りが残らない」商品は、スプレー後12時間経っても、まだ明確に香りが残っていたのである。この結果は、前述した「記者が以前に書いた記事」でも同様だった。それに対し、第35位『ライオン トップ ナノックス(旧ハイジア)』は、香りの残り方が「ごくわずか」で、12時間後にはほぼ香りが残っていなかった。あくまでも記者の鼻の能力の問題なので、“絶対”とは言えないものの、以前の記事のときも、この結果は同様だった。「香りが残らない」商品だと思って購入した人は、この“残り香”に満足しているのだろうか。

いずれも「香りが残らないタイプ」で、実際は香りが残る、第1位~第3位の商品。

まとめ:「無香料」P&Gと「抗ウイルス」花王?!の今後は?

 最初にも書いたが、「消臭・芳香・除菌剤」というものは、消臭と除菌の効果については消費者にはわかりにくく、「芳香」の部分だけはわかりやすい商品である。ところが、芳香つまり「香り」は好き嫌いがあるうえ、「消臭」しておいて香りを付けるのは、どこか自己矛盾を感じる。まして、2~300円で買えるような“安臭い”香りで消費者の“鼻をごまかす”ことには限界があると思っている。『日経POSランキング』の第10回「入浴剤」の記事にも書いたが、昨今の目の肥えた消費者は、もはや「香り」でごまかしが効かなくなっている。『ファブリーズ』ブランドサイトにも、最近の無香料の新商品シリーズには「香りでごまかさない」というキャッチフレーズがはっきりと書かれているのだ(下写真)。

 そう考えると今後、「布製品用消臭・芳香・除菌剤」のトレンドは、「無香料」が主流となり、香りがある商品は、どうしても「その香りが好き」だという人向けの少数派になっていくのではないだろうか。そうした視点で今一度(表1)のランキング表に戻ると、P&Gは、第4位の『P&G ファブリーズ ダブル除菌 アルコール成分入り 無香料 370ML』や、まだ表には反映されていない新商品『ファブリーズ ダブル除菌+消臭 無香料 370ML』など、無香料路線を着々と歩みを始めているのに対し、花王の『リセッシュ』にはせいぜい「香りが残らないタイプ」というあいまい表示の商品があるのみ。その代わりと言うと語弊があるが、第1位の『花王 リセッシュ 除菌EX プロテクトガード 350ML』は、「12時間持続する抗ウイルス」が売りにしている。  

『リセッシュ』の新商品には、「除菌」、「抗ウイルス」、「アルコール」といった、コロナ禍に響くキーワードがちりばめられている。

 コロナ禍の昨今、「除菌」とか「ウイルス」という言葉に過敏に反応する消費者は、そうした謳い文句に飛びつく傾向があるが、その効果の実体は本当にわかりにくい。しかも『リセッシュ』のボトルにも「すべての菌・ウイルスに効果があるわけではありません」との注意書きもあれば、逆に『ファブリーズ』のブランドサイトにも、「消臭に自信があるから無香料!しかも24時間抗菌」という言葉も書いてあるなど、除菌、抗菌効果の実力を見極めることなど一般消費者にとっては雲をつかむような話である。

4月に発売されたばかりのP&G『ファブリーズ ダブル除菌+消臭 無香料』。P&Gは、「無香料」路線で、除菌+消臭もアピール。

 このような状況で、どの商品を選べばいいのかは、もちろん消費者各人が決めることだが、記者は少なくとも「無香料」への大きな流れは止められないのではないかと思う。消臭剤なのだから、しっかりと消臭できればよし。香りが欲しければ、消臭した後で自分のお気に入りの香水やコロン、お香などで楽しめばいいからだ。除菌、抗菌の性能は正直言って消費者にはよくわからない。それぞれのブランドに対する各消費者の好き嫌いもあるだろう。各商品の価格は(表1)からもわかるように、『ファブリーズ』は『リセッシュ』よりも2割程度高い。現状では「無香料を前面に出す『ファブリーズ』vs抗ウイルスの『リセッシュ』」という構図になっているが、半年後、消費者がどう“判定”を下すのか、記者は今後も注目し、またあらためてこの企画で記事にするつもりである。(写真・文/渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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