[第25回]「歯ブラシ」は「コンパクト」から「幅広×薄型」へ!? 気になる『エビス』そっくり『ライオン』新商品の動向!

 しっかりとこだわりを持って「歯ブラシ」を買っている人は、一体どのくらいいるのだろう。というのも、「歯ブラシ」はアイテム数が多すぎて、記者は結局いつも選ぶことを放棄して適当に買ってしまうからだ。ブラシのかたさやブラシの大きさだけアバウトに決めて、何となくデザインの気に入ったものを選んでしまう。どうせ1ヶ月に1回くらいは買い換えるという気持ちもある。そんなわけで、「歯ブラシ」は何が今一番売れているのか、わからないから興味がある。今回のテーマは「歯ブラシ」である。

 この『日経POSランキング』では、記事の執筆に際して、毎回ランキング表を作成して商品を買い出しに出かける。撮影したり、実際に使ったり食べたりするためだ。表を片手に、商品名を見て商品を選んでいくが、今回の「歯ブラシ」は、商品名だけでは商品を選べなかった。バリエーションが多すぎて特定が困難なのだ。やむなく商品に付いているバーコード下の商品コードで、一つ一つ確認した。「歯ブラシ」選びは、やはり大変なのである。

「歯ブラシ」は、毛のかたさ、ヘッドのサイズ、毛束の列数、色など、バリエーションが多いうえに、よく間違った商品が違う場所に置いてあったりで、商品を探すのに苦労する。

 さて、いつものように『日経POS情報POS EYES』で、「歯ブラシ」のデータを調べてみよう。商品分類を見ると「歯ブラシ類」という大分類の中に、5つの小分類カテゴリーがある。今回調べたいのは、その中の「一般歯ブラシ」である。ちなみにこれ以外には、デンタルフロスなどの「歯間清掃具」、舌ブラシなどの「その他歯ブラシ類」、そして「電動歯ブラシ」「子供用歯ブラシ」の4つの小分類がある。

 日本経済新聞社が独自に収集した全国のスーパーのPOSデータから、昨年4月から今年3月までの1年間の「一般歯ブラシ」カテゴリーのデータを検索し、その販売金額のトップ20をランキング表にしたのが、下の(表1)である。

価格も形状も画期的な『エビス』の歯ブラシ

 このランキングを見て、まずライオン株式会社(東京・墨田区)の“一人勝ち”状態がすぐにわかるだろう。実際、このデータの「メーカー別販売金額シェア」を調べると、ライオンのシェアは4割を超え、2位のメーカーのシェアは1割程度というダントツぶりなのである。トップ20のうち、13商品がライオンで、次点のエビス株式会社(奈良県大和郡山市)サンスター株式会社(大阪府高槻市)の商品はそれぞれ3つずつ。残る1商品が花王株式会社(東京・中央区)となっている。

中央が第1位~第3位の『ライオン システマ ハブラシ 4列』シリーズ。左が、第4位『エビス プレミアムケア歯ブラシ ふつう』。右が第5位、第6位の『ライオン システマ ハブラシ しっかり毛腰』シリーズ。

 次に、表の一番右の欄の「カバー率」の数字に注目。この数字にバラツキが少ないのも、「歯ブラシ」市場の特徴といえるかもしれない。「カバー率」というのは、「商品の販売実績があった店舗の比率」のことで、例えばカバー率100%だと、すべての店舗に商品が陳列されているということになる。(表1)のカバー率を見ると、どれもほぼ60%~80%程度にまとまっており、多くの店舗に、だいたいの商品が行き渡っている状況が見て取れる。つまり冒頭に書いたように、店頭には様々な商品がまんべんなく溢れている状況になっているということなのだ。トップ20の中で、カバー率が50%に満たないのは赤字で記したライオンの2商品のみ。ライオンの商品は、もう十分過ぎるくらい店舗に陳列されている(下写真参照)のだから、このあたりの2商品などさほど問題ではないだろう。

このスーパーの歯ブラシ売り場は、売り場の7割くらいはライオン商品で占められていた。

 今度は(表1)の「平均価格」のデータに注目してみよう。こちらもバラツキが少ない。おおむね180円台の価格だが、その中で100円を切る飛び抜けて安いのが、ライオンの『ビトイーン ライオン』ブランドの2商品。逆に230円前後と高いのが、エビスの『プレミアムケア』ブランドの3商品である。

 ところで皆さんは、この『エビス』という歯ブラシメーカーをご存じだろうか。恥ずかしながら、実は記者は今回この記事を書くまで知らなかったのである。同社の歯ブラシの存在は知っていたが、会社名は知らなかったのだ。この『エビス』という会社、創業は明治29年というから、創業130年を超す老舗である。本社は奈良県で、事業内容は「ハブラシ日用品製造販売、プラスチック家庭用品製造販売」。ホームページで製品情報を見ると、「歯ブラシ」の専門メーカーといってもいい会社なのである。そして何より、この会社が作る歯ブラシが、非常に画期的でこれからの新しいトレンドになるかも知れないのである。

左は『エビス プレミアムケア歯ブラシ』、右は『サンスター ガム デンタルブラシ 191M 3列 超コンパクトヘッド』。ヘッドの大きさや毛束の数がこんなに違う。

ブラッシングが下手でも「幅広ヘッド」がカバー

 (表1)の商品名をよく見ると、商品名に「コンパクト」あるいは「超コンパクト」という言葉が入っている商品は、20品中15品もある。つまり今、歯ブラシのヘッドの大きさは“コンパクトサイズ”が売れ筋であることは間違いない。その背景には、歯磨きの意味が、単に口の中を綺麗に清潔にすることから、歯垢を取り除くことによる歯周病予防へと進化したのと同時に、歯ブラシのヘッドもコンパクト化し、細かく早く小刻みに歯ブラシを動かす磨き方が主流となった経緯がある。ちなみにコンパクトサイズというのは、おおむね毛束配列が3~4列で、植毛部の長さは25 mm前後,毛束の高さは10 mm前後のものをいう。

 ところが、歯磨きの仕方やスキルには個人差や能力差があり、誰もが同じように小さなヘッドの歯ブラシを小刻みに動かせるわけでもなく、ましてや高齢者だったり、手が不自由だったりしたら、効果に大きな差が出来てしまう。そこでおそらく1つの解決方法としては「電動歯ブラシ」を使うという方向があるのだろうが、もう1つの方向が、これから話をする「幅広ヘッド」の歯ブラシなのである。

エビスの歯ブラシの「幅広ヘッド」の特長(エビスのホームページより)

 つまりヘッドの幅を大きくし、そこに毛先を細く加工したテーパード毛を高密度に植毛した「幅広植毛歯ブラシ」(以下、「幅広ヘッド」の歯ブラシと呼ぶ)を使うと、歯磨きのスキルが劣っていても、それを歯ブラシがカバーしてくれるというのである。この形態の歯ブラシは、もともとは介護用として2005年にライオン歯科材株式会社により開発され、その後、幾つかのメーカーにより一般用としても市販、2017年には歯ブラシ市場の7.6%を占めるに至ったらしい(日本歯周病学会会誌60巻2号「最近の歯ブラシ事情―なぜ今,幅広植毛歯ブラシなのか」より)。

エビスの「幅広ヘッド」は、グリップ部分の原色と相まって、売り場でとても目立っている。

 そして、この「幅広ヘッド」の歯ブラシを2011年に「プレミアムケアシリーズ」(上写真)として商品化し、主力商品として販売し続けいてるのが、前述した『エビス』という歯ブラシメーカーなのである。エビスのサイトには、「ブラッシング技術がなくても、簡単に効率よく磨ける幅広ヘッド」という説明も掲載されている。この『プレミアムケアシリーズ』の最新の改良版の歯ブラシは、「幅広ヘッド」の土台部分を従来よりも薄くした「幅広×薄型ヘッド」(下写真)になり、口の奥まで磨けるようにパワーアップされている。

『エビス プレミアムケア』。右は従来の「幅広ヘッド」、左は新しい「幅広×薄型ヘッド」。ブラシの土台部分が薄くなっていることがわかるだろう。

ライオン「幅広ヘッド新商品」のインパクト

 「コンパクト」な歯ブラシをずっと使用してきた記者から見ると、売り場で見かけるエビスの歯ブラシは、これまでただの不格好に大きな歯ブラシにしか見えなかったが、上記のような背景を知り、この薄型の「幅広ヘッド」は必ずやこれから新たな歯ブラシのトレンドになるだろうと感じ始めていた。それが今回の取材中、その予感が確信に変わるような出来事があったのだ。歯ブラシ売り場で、4月21日に新発売されたばかりの新商品、ライオン『システマハブラシ 極上プレミアム』を見たことである。

4月21日に新発売された、ライオンの新商品『システマハブラシ 極上プレミアム』。

 このライオンの新商品の最大のセールスポイントは、なんと「薄型ワイド」なヘッド。つまりエビスの最新改良版の「幅広×薄型ヘッド」と全く同じである。しかもその「幅広ヘッド」に「超極細毛」と「ラウンド毛」の2種類の毛を使い、少し太めのグリップを採用したところまでそっくりなのである(下写真)

ライオンの新商品(右)は、なんと2011年からエビスが販売してきた『プレミアムケア』に何から何までそっくりなのである。

 この2つの似ている歯ブラシを実際に使用してみると、どちらも「ふつう」のかたさの毛であるにもかかわらず、超先細毛のためか、とてもしなやかで歯茎に優しく、安定感のある磨きやすさを感じる。しかも2種類の毛をヘッドに配置した感触、グリップの感じ、すべてが実によく似ているのである。

売り場の大きな広告にも、「幅広ヘッド」「薄さ」といった新商品のコンセプトが目立つ。これはこれからの歯ブラシの新しいトレンドになるかもしれない。

 売り場での広告やポップを見ても、ライオンがこの新商品の販売に力を入れていることはわかる。となると、いよいよこれから「コンパクトヘッド」歯ブラシの時代から、「幅広ヘッド」歯ブラシの時代へと、大きな方向転換が始まるかもしれない。記者は、これからしばらく、「幅広ヘッド」歯ブラシを使用しながら、その販売動向を注視していくつもりである。そして次回、また「歯ブラシ」をテーマに取り上げるときは、この動きがどうなったかをお知らせしたいと思う。(写真・文/渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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