[第10回]ストレス社会背景に好調な「入浴剤」。“炭酸系”から“高濃度炭酸”へ! さらには“無色無臭タイプ”まで

 春一番の声が聞かれる昨今とはいえ、まだまだ風の冷たい季節。在宅時間の長時間化という、国民的な生活習慣の変化もあり、ストレス解消・疲労回復したい人たちの「入浴」への関心が静かな高まりを感じる今日この頃である。そこで今回の『日経POSランキング』は「入浴剤」を取り上げる。記者がまだ若かりし頃、世の中はバブル絶頂期で、入浴剤といえば、各地の「温泉の湯」を模したタイプのものが主流で、高額なものや、ギフト用にもなっていた記憶があるが、現在の「入浴剤」トレンドは、そんなバブリーなものではなく、もっと本格的な“バブルなもの”へと変化しているようである。さっそく今売れている「入浴剤」は何なのか調べてみよう。

 商品のランキングの前に、「入浴剤」の市場規模の推移を調べてみると、やはりかつてのバブル期にピークがあり、当時は「600億円市場」と言われていたようである。その後縮小・横ばい傾向になったものの、この2~3年は再び400億円超えまで戻し、現在は再び上向き傾向にある。ネットで検索すれば、そうした数字は複数のマーケット調査等(調査会社、業界紙等)から、すぐにわかる便利な時代である。昨今のこの回復傾向の背景には、コロナ禍、緊急事態による在宅時間が増えたこと、それによるストレスや疲労回復への関心が高まったことなどがあるだろうと思われる。そしてそれを裏付けるように、売れている入浴剤にも、“ある傾向”が読み取れるのである。

なんと33位まで、花王、バスクリン、アース製薬だけ!

(表1)

 上の(表1)は、昨年1月~12月の1年間の「入浴剤」の販売金額に基づくランキングのトップ10である。『日経POS EYES』を使い、日経独自収集による全国のスーパーのPOSデータから、商品分類の大分類「入浴剤」の中の、小分類「入浴剤」を指定し、抽出したデータから作成したものである。

 注意を要するのは、この表はあくまでもスーパーだけの販売データなので、「入浴剤」市場の全体像を必ずしも正確には表していない可能性があるということ。具体的な数字は出せないが、今回の抽出データ全体の販売金額は、入浴剤全体の市場規模に比べ非常に小さく、それはつまり、入浴剤はスーパーで買う人がさほど多くないという可能性を意味するからだ。このことは、自分の周囲の人たちにヒアリングした結果とも一致する。記者が聞いた人の多くは「入浴剤はドラッグストアかネットで買う」と回答したのである。その点を意識しつつ、まずはこの(表1)から昨今の入浴剤の販売傾向を見ていこう。

スーパーでもドラッグストアでも、花王の『バブ』は最も目立っている。

 (表1)を見ると、トップ10のうち第1位から第5位まではすべて株式会社花王(東京・中央区)の『バブ』の独占状態であることに驚かされる。さらに8位も『バブ』なので、なんとトップ10のうち6つは『バブ』ブランドで占められているのだ。残りの4つは、日本初の入浴剤を製造・販売した株式会社バスクリン(当時は津村順天堂/東京・千代田区)の『きき湯』『バスクリン』『日本の名湯』の3ブランドと、アース製薬株式会社(東京・千代田区)の『温泡』ブランドが1つである。この入浴剤のランキングは、トップ10以降も、この花王、バスクリン、アース製薬の商品だけがひたすら繰り返し登場し、この三社以外の商品がランクインするのは第34位のクラシエホームプロダクツ株式会社(東京・港区)の『旅の宿』が初めてになる。ちなみに株式会社バスクリンは現在、アース製薬株式会社の完全子会社になっている。

花王『バブ』の最大の特長は「炭酸力」。同社ブランドサイトより。

一億総疲労時代!?の入浴剤は「炭酸ガス系」

 それではまず(表1)のランキングで圧倒的な強さを見せる花王の『バブ』だが、このブランドの最大の特長は「炭酸力」にある。パッケージを見ても、ブランドサイトを見ても、『バブ』という商品名には必ず「炭酸力の」という枕詞が付いている

 この『バブ』のような「炭酸ガス系」の入浴剤は、お湯に溶かすと、シュワーと炭酸ガス(二酸化炭素)の気泡が発生し、その炭酸ガスにより、温浴効果が高められ、血行が促進され、その結果、疲労回復、肩こりや腰痛、冷え性にも効くという点がセールスポイントになっている。その多くは医薬部外品である。

 トップ10の商品を見ると、『バブ』だけでなく、バスクリンの『きき湯』も、アースの『温泡』も、「炭酸湯」という言葉を使い、いずれも「炭酸ガス系」の入浴剤であることがわかる。つまりトップ10のうち8つは「炭酸ガス系」の入浴剤なのである。

 上のグラフは、「未就学・小学生の子どもと同居する入浴剤使用者」への、「入浴剤に期待する効能効果について」のアンケート調査の結果である。子ども向けの入浴剤(ボール型/バスボム)には「お風呂時間を楽しくする」ことを期待しているのは当然として、顆粒や錠剤タイプの、いわゆる通常の入浴剤に期待することは「疲労回復」「体を温める」「リラックス効果」であることがよくわかる。そして現在、その期待に答える入浴剤として「炭酸ガス系」入浴剤が選ばれているわけだ。

 同じ「炭酸ガス系」の入浴剤でも、各社の商品ラインナップには、さらにプラスαの付加価値が付け加えられている。例えば、『バブ』の定番タイプは、塩素除去剤を配合することで、さら湯(水道水で沸かしたままのお湯)の塩素によるピリピリ感を減らし、肌と同じ弱酸性の湯質にすることを謳っている。

バスクリンの『きき湯』は、温泉科学の粒(温泉成分のミネラル)配合を売りにしている。

 同様に、バスクリンの『きき湯』の特長を見ると、こちらはやはり「炭酸ガス系」であることに加えて、マグネシウムやカルシウム、カリウムなどの温泉成分にあるミネラルを加えることで商品ラインナップを作り、「その日の症状、その日のうちに。」をテーマにブランド展開している。

アース製薬の『温泡』は種類が多く、売り場ではとても目立つ存在だ。

 アース製薬の『温泡』は、やはり「炭酸ガス系」で、そこにハーブやフルーツ等の香り成分や、和漢の生薬をプラスしたタイプなどでブランド展開。「泡とともに弾ける こだわりの香り」が『温泡』のキャッチフレーズになっている。

「炭酸ガス系」から「高濃度炭酸」へパワーアップ!

 さて、冒頭で「入浴剤はスーパーよりも、ドラッグストアやネットで買う人が多い」という可能性に触れたが、その検証の意味もあり、記者はいくつかのスーパー、ドラッグストア、そしてネット販売の現状を、自分の目で確認してみた。売り場は、データにも負けず劣らず多くのことを語るものだからである。

 始めに3店のスーパーの入浴剤売り場を見て回ると、どこも売り場はそれほど広くなく、品揃えは(表1)の売れ筋商品がほとんどである。つまり花王、バスクリン、アース製薬の商品が大半で、商品の配列に何かの意図も感じられず、ポップ類等もなく、淡々と売られている様子だった。

ドラッグストアには、大手メーカーだけでなく、多種多様な入浴剤が棚に並ぶ。

 次に、2店のドラッグストアに足を運ぶと、これがスーパーの売り場とは大違いだった。まず何より、品数品揃えが非常に多いこと。大手メーカーの商品から、無名のメーカーの商品まで、さらに箱入りだけでなく、小分けの小さなポーション入りの入浴剤、輸入物など多種多様に配列してあり、特に目当てがなければ、何を選べばいいのか悩んでしまう。それと、売り出したい商品や、売れ筋は目立つように置かれていたり、ポップが立っていたりで、棚にメリハリがある。そこで見つけたキーワードが、「高濃度炭酸」という言葉だった。

ドラッグストアの入浴剤売り場で一番目立っていた「高濃度炭酸」商品。

 要するに「炭酸ガス系」入浴剤の、炭酸の濃度を高めた商品が、今、ドラッグストアの店頭では圧倒的に目立つように置かれているのだ。具体的に商品で言うと、花王の『バブ』ブランドでは「メディキュアシリーズ」、そしてバスクリンの『きき湯』ブランドの「きき湯ファインヒート」である。どちらも従来の「炭酸ガス系」入浴剤より何倍も多い炭酸ガスを湯中に送り込むことで、疲労回復や血行を良くする効果が高まることが期待できる。

バスクリン『きき湯 ファインヒート』も“高濃度炭酸”商品。値段は高いが手に取る人も多かった。

“こだわり派”向け、無色無臭の商品も話題に

 さらに、今度はネット通販の状況を見るためにAmazonで入浴剤を検索すると、圧倒的に目立っている商品が株式会社TWO(東京・渋谷区)が発売する『BARTH(バース)』という入浴剤だった。これはドイツの中性重炭酸泉という温泉からヒントを得て開発された入浴剤で、炭酸泉の血行を促す成分である重炭酸イオンが長時間、高い濃度で湯中に留まることが特長である。この『バース』は無色無臭で、入浴剤ユーザーの中でも、不要な添加物を心配したり嫌う、“こだわり派”層の人たちからも支持を得られそうな商品である。

『バース』はパッケージも、サイトの作りもオシャレで、こだわり派やナチュラル派ウケしそうな雰囲気が漂う。サイト内の商品説明ページより。

 記者は「入浴剤は結局何を使っても入浴剤の香りしかしないことが嫌だった」が、無色無臭であれば使用する気が起きてくる。ドラッグストアでも『バース』を入手できたので、さっそく買って試してみると、「温泉に入った後のようにいつまでも体が冷めずに汗が噴き出し続けた」ことが衝撃的だった。しかも無色無臭なので、お風呂に入浴剤臭が残らず、入浴剤の入ったお湯で顔や頭も洗えるのがとても気に入った。『バース』の細かな特長などは、こちらのサイトから見て欲しい。

 このような無色無臭の入浴剤は、花王の『バブ』や、アース製薬の『バスロマン』ブランドからも登場し始めており、ここまで来ると、もはや入浴剤は、かつてのような“気分”で買うものから、“機能”で買うものに移行しつつあるようにも見える。多少価格が高くてもこれを選ぶ、新たな入浴剤ユーザー層を開拓しそうな商品である。

 不要不急な外出ができず、密を避けるためにも温泉にすらなかなか出かけられない昨今、疲労回復やストレス解消のためだけじゃなく、1つのレジャーとして、家のお風呂の入浴剤をあれこれと試してみるのは意外と面白いかもしれない。

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記者

渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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